2025年12月18日木曜日

1ミリの進歩――ブルースハープとサキソフォンのあいだで

 

10ホールのブルースハープちゅうもんをやね、
中学高校の頃から、ずーっと持っとんねん。半世紀以上やで、半世紀。

せやけどな、上手なったか言われたら、笑わしたらアカン。
そない立派なもんちゃうわ。

去年の秋からや。
アルトサックスちゅう、またややこしいモン始めてな、
一年ほど経って、久しぶりにハーモニカ吹いてみたんや。

……その時や。

「なんやこれ」
「前より、音が分かる気ぃすんで」

ほんの一ミリや。
せやけどな、その一ミリが、やたら重たい。

サックスとブルースハープ?
見た目は似ても似つかんわな。
片やピカピカ、片やポケットに突っ込む鉄クズや。
けどな、吹いたら分かる。
こいつら、根っこは一緒や。

まずな、息や。
息が全部や。
腹で息せんかったら、どないもならん。
浅い息やったら音フラフラやし、力入れたらすぐバレる。
押すんとちゃう。支えるんや。
流すんや、流す。

「力入れんな!」
「息止めるな!」
あれな、ハーモニカでも、そのまんま通用する話や。

誰かにエラそうに言われたわけやあらへん。
せやけどな、吹いてたら分かってくるんや。

「あ、これ力入れたらアカンな」
「ここで息止めたら、音が死ぬわ」

そういうことがな、
音そのもんから、じわじわ返ってくる。

それがな、ハーモニカ吹くときにも、
そのまんま通用する話やった。

それからな、息の加減そのもんが、表現や。
ブルースハープのベンドも、サックスの音程の揺れもな、
指ちゃうで。息や。

ちょっと圧変えただけで、
ちょっと角度ズラしただけで、
音がな、ニヤッと笑いよる。
生き物や、あれは。

正解?
そんなもん、あるかいな。
あるんはな、身体が覚えた感覚だけや。

それとな、決定的なんがこれや。
この二つの楽器、歌いや。

リトル・ウォルターはんの演奏、思い出してみ。
吹いとるんとちゃう。
しゃべっとる。
歌っとる。

音符並べてるんやない。
間ぁ取って、
ちょっと黙って、
言いよどんで、
腹立ったら、叫ぶ。

楽器やのうて、
喉の続きやな、ありゃ。

到達点?
そんなん言われたら、困るわ。

せやけどな、
サックス一年が、
ハーモニカを一ミリだけ前に押してくれた。

一ミリやで。
けどな、ワイには十分や。

音楽ちゅうのはな、階段ちゃうねん。
上がったり下がったりするもんやない。
循環的な解釈や。歴史みたいなもんやな。

遠回りして、
別の楽器通って、
ようやく昔の自分のとこ戻ってくる。

そん時な、
同じ場所立っとるはずやのに、
景色がちょっとだけ違う。

……その一ミリや。

それがあるさかい、
ワイは、まだ吹いとるんやろな。

***

0 件のコメント:

コメントを投稿