2010年8月29日日曜日

ジョージ・オーウェルの「1984年」

昔は同じ本を何度も読むことはなかったのですが、ここ数年同じ本を何度も読むようになりました。やはり、価値のある中味の詰まった本は何度でも読めます。経済的でもあります。

久しぶりに、ジョージ・オーウェルの「1984年」を読んでみました。改めてこの本のすごさが分かります。以前このブログに、「蟹工船」を読むならジョージ・オーウェルの「動物農場」を読んで欲しいと書きましたが、高校生や大学生には「1984年」を読んでいただきたいと思います。その後でもし時間に余裕があれば「1Q84」でしょう(私は「1Q84」も「ノルウェーの森」も読んでいませんが、、、)。

「1984年」の舞台となる国は思想や言論に厳しく統制が加えられています。物資は欠乏し、国民は、テレスクリーンによって昼夜を問わず屋内でも屋外でも行動が監視されています。言語はニュースピークというものです。ニュースピークは、思考を単純化し、思想犯罪の予防を目的として成立した新語です。語彙の量を極端に少なくし、政治的・思想的な意味を持たないようにされて、この言語が普及すれば、反政府的な思想を表現することができなくなるというものです。中国語のピンイン(ローマ字表記)や朝鮮語のハングルなんていうのはニュースピークの系統かも知れませんね。最近の中国の若い人と話をしていても、彼らが漢字の意味や語源にあまり興味を示さないのに驚きますから。

「1984年」に出てくる国には真理省(The Ministry of Truth)があります。真理省は声高にプロパガンダを叫びます。政治声明、党組織、テレスクリーンを管理するのです。また、新聞などを発行しプロレフィード(軽薄な小説・映画・音楽)を供給するほか、歴史記録や事実を党のイデオロギーに合うように改ざんし、常に党の言うことが正しい状態を作り出します。プロレフィードと言うのは、プロレのフィード、つまり、「大衆に与えるエサ」という意味です。面白いですね。恐いですね。日本のテレビや新聞・雑誌はプロレフィードになっていませんか?

私はノンアルコールの「缶(カン)」ビールはダメだったですが、小説もジョージ・オーウェルの「1984年」が素晴らしいと思います。

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2010年8月27日金曜日

秋刀魚と保守の話

居酒屋で新サンマを食べました。新サンマは冷凍・解凍していない秋刀魚のことです。魚屋さんで一年中秋刀魚を買うことができるのは、冷凍したものを保存してそれを解凍して売っているからです。今年は根室沖の海水温度が上昇して秋刀魚が捕れないそうなので、新サンマに出くわしたのはラッキーでした。写真は最後に食べた秋刀魚のおにぎりです。

秋刀魚を酒の肴に昨今の政治と経済の話になりました(そう言えば、ジェラルド・カーティスの著書に「政治と秋刀魚」という本がありますね)。

村山内閣って憶えていますか?1995年阪神淡路大震災やオーム真理教の地下鉄サリン事件が起った時の内閣です。村山政権は政権を維持することだけが使命の内閣でした。経済を発展させることも問題を解決する必要もありませんでした。全て先送りして政権維持だけを考える内閣でした。外交では、日本の過去の「罪悪」をひたすら詫び続けました。悪名高き村山談話ですね。村山内閣の行ったことは、「日本人の自信と誇り」をズタズタに切り裂いたことです。

さて、今の政権では何を崩壊させようとしているのでしょうか?政治家先生たちが意識しているかどうかは知りませんが、何が崩れ去るのでしょうか?

敗戦後、日本は「国」の独立を先送りし経済成長を優先させることによって、「日本人としての自信と誇り」を構築してきました。個人的には吉田茂さんという総理大臣はあまり好きではありませんが、経済成長を「日本人の自信と誇り」としたことは、やはり吉田さんのスゴイところですね(それが正しかったとは言っていませんよ)。

もし、日本人の唯一の成果、拠り所である経済での成功まで否定せざるを得ないとなると、この国の保守は何を守るのでしょうか? そろそろ夏休みも終わりますが、高校三年生の夏休みに考える課題としては、「江戸時代の鎖国と保守について」なんていうのも面白い研究課題かもしれません。

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2010年8月26日木曜日

チョコレートサンデー指数


先週、上海のマクドナルドでチョコレートサンデーを食べました。 グリコのジャイアントコーンもいいですが、実は、マクドナルドのサンデーも好きなんですよ。

アメリカのオハイオ州で食べるチョコレートサンデーと全く同じです。グローバリゼーションの成果でしょうか?(皮肉ですよ)。中国語でチョコレートサンデーは「朱古力新地」と言います。発音は「ちゅーぐーりー しんでぃー」、中国語に濁音はありませんので、「ぐ」と「で」は濁音と清音の中間の音で発音して下さい(なに、発音することなんてないって?)。写真のチョコレートサンデーは6元(80円)でした。オハイオだと1ドル(85円)。日本だと150円です。

ビッグマック指数(Big Mac Index)をご存じですか?ビッグマックの価格を比較して各国の経済力を測るための指数です。ビッグマックは世界中でほとんど同品質のものが販売され、原材料費や店舗の光熱費、店員の賃金など、さまざまな要因を元に単価が決定されるため、購買力の比較に使いやすかったのです。

チョコレートサンデーで指数を考えてみましょう。チョコレートサンデー指数です。

USのマクドナルドでチョコレートサンデーは$1です。日本では¥150。2010年8月23日の為替レートは1ドル85円ですから、日本のチョコレートサンデーはドルだと$1.75になります。したがって、1ドルは150円程度が適当ではないかとチョコレートサンデー指数は言っています。

要するに、円は実力以上に高く評価されているということですね。政府が無策で中央銀行も弱いと、その国の通貨は他国の思い通りに操られるようです。

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2010年8月22日日曜日

アメリカの就職事情

日本の若い人たちは、「リスクが高い」、「魅力がない」といって海外に行きたがらないそうです。「君子危うきに近寄らず」なのか「虎穴に入らずんば虎子を得ず」なのか、どちらが正解なのでしょうか?日本の若者はみんな君子になっちゃったのでしょうか?「No GainでもいいからPain(痛み)はイヤだ!」のようです。自分の家の中、つまり、列島の中であれば自分の好きなように振る舞えるので、楽ちんですものね。

春までibg上海で働いていた中国人女性からメールが来ました。三年前に上海の有名大学から新卒でibgに入社した一期生です。この春にシカゴ大学の大学院に合格しシカゴにいます。数ヶ月前に送別会をやって送り出しました(太陽島でのオフサイトミーティングで ~http://ibg-kodomo.blogspot.com/2010/04/blog-post_30.html )。

太陽島からの帰りのバスの中で私の横に座り、盛んにアメリカのことについて質問してきました。期待と不安が入り交じった彼女の気持ちが強烈に伝わって来ます。主にアメリカでの就職に関する質問でした。彼女は卒業後のことを考えているのです。日本だけでなく、中国でも女性のほうが積極的ですね、肉食系のような気がします(ibg上海の中国人男性はアメリカよりも秋葉原を目指しているような、、、、)。

アメリカの就職事情に関して少し説明させて下さい(日本の若者は興味がないかも知れませんが、、、)。

アメリカで働くには、労働ビザ取得の問題が何よりも重要なことです。どんなに優秀な成績でMBAを取得しても、ビザがなければアメリカで働くことはできません。そのビザをサポートしてくれる会社を見つけることは、かなり骨のおれることです。MBAを取得したら卒業後一年間は、プラクティカル・トレーニングと称して合法的にアメリカで働けます。しかし、一年の内にビザ取得のスポンサーになってくれる会社で仕事をみつけなければなりません。通常アメリカ企業は、面倒なビザの手続きを要する日本人よりも、少しくらいレベルは低くても例えMBAを持っていなくても、英語を完璧に話すアメリカ人を採用します。

だったらどうすればいいのでしょう? 解決策の一つは、日本語や中国語を話すことや、日本人や中国人であることが強く必要とされる職を探すことです。つまり日本人や中国人であることをスぺシャリティとすればよいのです。

アメリカに留学しMBAを取得した日本や中国の若者たちは、日本や中国との関係を断ち切ってでも、アメリカで活躍しようとします。ところが現実はそう簡単ではありません。いくら有名大学でMBAを取ったからといっても、アメリカ国籍の若者と差別化する決定的な武器にはならないのです。MBAに希少価値がないからでもあります。

ビザや英語のことを考えると外国人にとってアメリカでの職探しは最初から大きなハンディを背負った戦いなのです。これらのことは、アメリカで学校を卒業する頃になると最初に突き当たる壁です。アメリカに来る前から知っているのと知らないのとでは後々随分と違いが出てくるのです。

最近の世界情勢をみると、大陸から来た中国人であるスペシャリティのほうが日本人であることよりも有利であることは間違いありません。

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2010年8月19日木曜日

大吟醸でバイ菌を消毒


日本に帰ったら、昔の仕事仲間から群馬 山川酒造の大吟醸が届いていました。友人の心遣いに感謝です。体調は万全でなくとも飲まねば、、、。中国でもらったバイ菌を大吟醸が消毒してくれそうです!

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2010年8月17日火曜日

エデンの東で英語の勉強

上海から帰ってきました。

今回は不覚にも急性胃腸炎になってしまいました。熱も出て、「外の気温は39度、体温も39度」という生まれて初めての経験をしました。上海から成田への機中、左手でお腹を押さえながら機内食も断って『エデンの東』というジェームス・ディーンの映画を観ました。1955年のアメリカ映画です。40年以上前に観た映画なのですが、小学生の私は主題歌のレコードを手に入れて毎日毎日聴いていた覚えがあります。

ジェームス・ディーンはいいですね。

子供と大人の間、つまり、青春(adolescence)そのものです。『エデンの東』以外に『理由なき反抗』と『ジャイアンツ』、3つの代表作を残しただけで、24歳の時に交通事故で死んでしまいました。だから、永遠に青春なのです。

さて、中学生の夏休みの英語学習の提案があります。高校受験の夏期講習より将来役に立つかも知れません。

『エデンの東』を字幕スーパー入りで観てストーリーを理解したあとで、ラストシーンを繰り返し字幕なしで観て下さい。最初は英語のスクリプトを観ながらでも良いと思います。レンタルビデオを借りてもいいし、YouTubeにもあります(URLは ↓ )。

http://www.youtube.com/watch?v=zS6Fotgs3Js&feature=related

上のシーンのスクリプトは下の通りです。少し長いですが、映像だとラストのほんの数分です。100回観ても大したことはありません。実践英語がいっぱい詰まっていますよ。

Abra 「Mr. Trask, can you hear me? Is it just Cal you won't answer? Can you answer? I think you can understand me, though. I think behind your eyes you're just as alert as ever. You understand everything I say only you can't show it. Excuse me, Mr. Trask, for daring to speak to you this way... but it's awful not to be loved. It's the worst thing in the world. Don't ask me how I know that. I just know it. It makes you mean and violent and cruel. And that's the way Cal has always felt, all his life. I know you didn't mean it to be that way, but it's true.

You never gave him your love. You never asked him for his. You never asked him for one thing. Cal is going away, Mr. Trask. But before he goes... He did something very bad, and I'm not asking you to forgive him. You have to give him some sign that you love him... or else he'll never be a man. He'll just keep on feeling guilty and alone, unless you release him. Please, help him.

I love Cal, Mr. Trask, and I want him to be whole and strong... and you're the only one who can do it. So try, please try. If you could ask him for something. Let him help you so that he knows that you love him. Let him do for you. Excuse me, Mr. Trask, for daring to speak to you this way, but I just had to」

Nurse 「You've tired my patient... and I most certainly shall report it to the doctor in the morning」

Abra 「You don't know that he accuses you. You don't know what he's thinking about. Stop it, Cal. You gonna cry for the rest of your life? No. Then stop it. Go in there and talk to him before it's too late

Cal 「I can't」
Abra 「Please try. Get it straight. Get through to him, somehow. Please try, Cal, before it's too late」

NurseIs there any coffee around here? I'll get you some in a minute

Abra「Try」

Nurse 「Is there anything to read around here?」
Abra What would you like?
Nurse Something to get my mind off my feet. There's something in there」

Cal 「I tried to believe it was born in me...and that I couldn't help it, but that's not so. A man has a choice. You used to say that was where he was different from an animal. You see, I remember. A man has a choice, and the choice is what makes him a man. You see, I do remember」

Nurse 「Look, I can't find any coffee」

Cal 「Get out!」

Abra 「Look」
Adam(Cal’s father) 「Do something... for me」
Cal 「Yes」
Adam 「That woman...the nurse, can't stand her.Get me another
Cal I can't stand her, either

Abra 「What did he say?」
Cal 「He said, "Don't get anybody else." He said, "You stay with me... "and you take care of me."

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上海の軍隊


上海には特別に上海を防衛する上海警備区があります。これは警察ではなく軍隊です。日本ではあまり知られていませんね。敵が上海を攻めてきたら徹底抗戦し防衛するための軍隊です。核兵器の1発や2発は持っているかも知れませんよ!

我々のオフィスは、上海警備区の斜め向いのビルにあります。南京西路という上海のメインストリートの1本北側の通りなので、本当に街のど真ん中です。ibgの入居するビルは、北側のスペースは外資系企業には貸出禁止になっています。ビルの高層階からのスナイパーなどの攻撃を警戒しているのです。上の写真は、ibg上海オフィスの一番上海警備区に近い窓から撮影したものです。ビルの上には以下のようなスローガンが掲げられています(低いビルの屋上の赤いカンバン)。

政治合格(正しい政治思想)
軍事過硬(訓練された強い軍隊)
作風優良(仕事に対する優良な姿勢)
紀律厳明(厳格な紀律)
保証有為
(完璧な警護)

かなり大きな敷地の中では朝から集団でランニングをやっているのが見えます。上海防衛に命を賭けるエリートの若者たちです。

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2010年8月14日土曜日

吉田満さんのこと

3月のブログで、吉田満さんの「戦後日本に欠落したもの」(昭和55年 文藝春秋)を紹介しました。

http://ibg-kodomo.blogspot.com/2010/03/blog-post_17.html 

吉田さんは戦艦大和乗組員の学徒士官(少尉)だった方で、「戦艦大和ノ最期」(講談社文芸文庫)という本も書いています。 吉田さんは東大法学部を繰り上げ卒業し、電測(レーダー)少尉として大和の沖縄特攻に乗り込みました。大和は奄美群島で撃沈され2740名が死亡、269名が生き残りました。その生き残りの一人です。戦艦大和乗船時は22歳の若さです。吉田さんは戦後日銀幹部になり、昭和30年代にはニューヨークにも駐在しました。三島由紀夫とも親交があったそうです。1979年に56歳で死去。

  「進歩のない者は決して勝たない。負けて目覚めることが最上の道だ。日本は進歩ということを軽んじすぎた。私的な潔癖や徳義にこだわって、本当の進歩を忘れていた。敗れて目覚める、それ以外にどうして日本は救われるか。今目覚めずしていつ救われるか。俺たちはその先導になるのだ。日本の新生に先駆けて散る。まさに本望じゃないか。」(「戦艦大和ノ最期」より)。

300万人が死んだ戦争を、論理的に検証しないでも平気な国民というのは異様としかいいようがありません。「人間が動物と違っているのは、人間は過去の出来事を憶えている点だ」と言われます。国のために命を捧げた捧げさせられた自国民に対し、国の指導者たちが哀悼の意を表すことができない。それどころか、近隣諸国に対して謝罪を続ける。これは日本の指導者たちが指導者でなく、つまり、正真正銘の「大衆人」だからです。

オルテガは「大衆の反逆」の中で、『大衆人とは、自分の歴史を持たない人間、つまり過去という内蔵を欠いた人間』と言っています。自分の過去を忘れてしまった者、これは、「野蛮への後退」だと言っているのです。 マス・メディアの8月は一時的に芸能情報から自虐的な戦争特集になり、お盆が過ぎるとまた元に戻ります。私は長い間8月に日本にいることはありませんでした。今年は、忘れていた8月の日本の空気が蘇り憂鬱になってしまいます(この週末は上海ですが)。

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2010年8月13日金曜日

上海の新聞に日本の賃貸物件広告を見た!


今日(13日)の上海の朝刊です(駅で配っているフリーペーパー)。 一面は猛暑警戒警報が出た話題。右は日本の不動産の賃貸物件広告です。神秘的な雰囲気の池袋特集だそうです。

(画像をクリックすると拡大します)

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2010年8月12日木曜日

上海の気温は39度

今週は上海に来ています。
毎日暑いですね、、、39度です。熱風で頭がクラクラします。

上海には「高温手当」といって、気温が40度になると国営企業は1時間10元を従業員全員に支払わなければならない制度があります。50年前に法律で定められたそうです。でも大丈夫、国営の気象庁は39度を超える発表はしませんから。今日も最高気温は39度です。

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2010年8月10日火曜日

噂の缶ビール

「アサヒ ダブルゼロ」(左)と「サントリー オールフリー」

「カロリーゼロ」 「糖質ゼロ」を売り物にした健康志向の分野で、ノンアルコールビール戦争がヒートアップしているそうです。ミーハーの私は、早速話題になっている2つのメーカーのものを試してみました。

私はダメですね。麦茶か漢方に泡を混ぜたような感じがしました。中味のない「カン」よりも、アルコールも糖質もある健康志向じゃない従来のビールがうまいです!

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2010年8月9日月曜日

大衆の反逆

昔はよく理解できなかった本でも、今読むと「なるほど、、、」と思うことがあります。オルテガの「大衆の反逆」もそういった一冊です。 ちゃんとした先生がいれば、高校の授業で取り上げると面白いと思いますね。大学受験のための夏期講習なんかより、人生の役に立つこと請合いです。

オルテガはスペインの哲学者で、「大衆の反逆」は1930年に出版されました。二つの世界大戦の間、世界大恐慌の真っ直中です。オルテガが憂慮した『大衆の反逆』とは一体何のことを言っているのでしょうか? それは、凡庸な平均人が権力の座に登りつめたという事実に警鐘を鳴らしていることです。マルキストやファシストの左右両翼のことを言っているのかも知れませんし、当時新興国であったアメリカのことを指しているのかも知れません。

オルテガは、大衆人が持つ共通の性質は 『大衆とは、善い意味でも悪い意味でも、自分自身に特殊な価値を認めようとはせず、自分は「すべての人」と同じであると感じ、そのことに苦痛を覚えるどころか、他の人々と同一であると感ずることに喜びを見出しているすべての人のことである』と説明しています。また、『大衆人は満足しきったお坊ちゃんだ』とも言っています。お坊ちゃんとは、『家の外でも家の内と同じように振る舞うことができると信じている人間であり、致命的で、取り返しの付かない、取り消し不可能なものは何もないと信じている人間のことである』と。

大衆人は、甘やかされた子供と同じで野蛮人に近い。これは、福沢諭吉が「野蛮、つまり禽獣の世界から出来る限り遠ざけ文明に近づけることが教育だ」といったことに近いと思います。哲学者というのは、ソクラテスやプラトンの時代から表現は違っていても同じことに帰結するのだと思います。それは、いつの時代でも「人間」を扱っているからですね。

『今日の大衆人は自分がなんの思想も持ち合わせていないと知りながらあらゆる社会的な活動に首を突っ込むだけでなく、あろうことか、社会に貢献しうる有能で創造的な人間を「みんなと一緒でない」という理由で敵視している。人々はますます凡庸化・平均化していく一方、社会の構造はますます複雑になり、その複雑な社会に挑みうる有能な人材の創造性は大衆により圧殺される危険にさらされている』。

このような危機的状況をオルテガは『大衆の反逆』と呼んでいます。

オルテガが指摘した『大衆の反逆』とは、まさに現代の日本にそのまま当てはまる現象ではないでしょうか?「国民のみなさま、いかがでしょうか!」と声高に叫ぶ日本の政治家を見ていると、ノブレス・オブリージュなどとは無縁の大衆人の特徴を備えているようです。

「大衆」とは「マス」ですよね。マス・メディアが発達(倒錯?)した今の日本において、つまり、一億総大衆化した日本では、国外から一定の方向に日本全体を誘導することなんて簡単でしょうね。マス・メディアを押さえればいいわけですから。

この状況を打ち破るには、マス・メディアからの垂れ流し情報を軽信するのではなく、自らが積極的に政治や社会問題を考え情報を収集していくしかないでしょう。高校3年生の夏休み、オルテガの「大衆の反逆」に1ヶ月を費やすくらいの余裕が欲しいですね。

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2010年8月6日金曜日

アメリカの歴史教科書が教える日本


アメリカのルース大使が広島の平和記念式典に出席しましたね。

今後、アメリカが日本を見捨てるかどうか分かりませんが、かつてほど重要視しなくなりました。アメリカにも余裕がなくなったし、中国も予想以上のスピードで強くなってきた。「日本は困ったものだけど、暫く放っておくしかないね」だろうと思います。

さて、アメリカの学校では真珠湾、広島・長崎への原爆投下までの大東亜戦争をどう教えていると思いますか? (「大東亜戦争」と言う呼称を使ってはいけないと命令したのはアメリカ占領軍ですね。ご存じでしたか?)。

アメリカの小学校の授業で日本は出てきません。小学生ではアメリカが戦争をした相手が中国なのか日本なのか恐らく分からないでしょうね。大学では個人が特別に選択しないと、日本に関することなんて教わる機会はありません。ですので、日本に関して何らかのことを習うとすれば、中学と高校の時だけです。つまり、アメリカ人の日本に関する歴史感覚なんて、この程度のものなのです。

今、私の手元に息子から借りてきた高校の歴史の教科書があります。「America A Narrative History」というアメリカ史の教科書で、厚さが6センチちょっと、重さは2キロもある本です(上の写真)。息子はすでに社会人ですから、高校の時に使った歴史の教科書なんかとっておく必要はないのですが、彼は「これは良い本なんだ」と本棚にキープしています。この教科書は、植民地時代以前(先コロンブス期)からクリントン政権までをカバーしています。一般的なアメリカ合衆国史です。

真珠湾から広島・長崎への原爆投下の部分を見ても、特にアメリカを正当化するような記述はありません。当たり前ですが、日本の教科書のように自虐的にもなっていません。単に歴史的事実を時系列的に伝えているだけのように見えます。 勿論、広島・長崎が非戦闘員に対する無差別攻撃であり国際法違反だとは書いてありません。原爆のページに掲載されている写真は、焼けただれた時計の写真です(上の写真の左上)。原爆のキノコ雲の写真はありません。

日本との戦争に関しては、日本という国の成り立ちや戦争に至る背景が複雑すぎて、先生でも理解している人は少ないのだと思います。アメリカの中学・高校で教える第二次世界大戦は、対ドイツ、つまり、ヨーロッパの戦争が中心です。ナチスドイツですね。ファシズムです。そこには親衛隊(SS)を従える悪党のヒットラーがいる。それをヒーローであるアメリカ軍が成敗にいく。分かり易いですよね。

日本の場合はどうでしょうか?天皇はヒトラーのようでもないし、誰もが分かる大悪党の存在が見あたらないのです。南京大虐殺をホロコーストのように位置づけようとしたこともあったようですが、よく調べるとどうも事実関係が怪しい、、、、だから教えられない。私はそうだと思いますよ。正当性がないのは明かだから、東京裁判なんて復讐劇は絶対に説明できない。マッカーサーの占領政策だって、「言論弾圧だろう!」と生徒たちは黙っていないでしょうしね。

ただ、アメリカの歴史教科書は、アメリカ国内の政治・経済の時代背景や、戦後の冷戦にいたるソ連との関係に関しては、かなり紙面がさかれています。歴史の大局観を掴ませ、当時のリーダーの意思決定プロセスを学ばせようとしているのでしょうね。

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2010年8月5日木曜日

国際連合のこと

国連の潘基文(パンギムン)事務総長が来日し、長崎・広島を訪問しますね。

国際連合を英語でいうと「United Nations」と言います。直訳すると「連合国」のはずですね。「国際」なんてどこにも入っていません。第二次世界大戦において、日本やドイツ、イタリアと戦った戦勝国の集まりだから「United Nations」なのです。日本は敵国であって、連合国側(allied)ではありません。国連ができた時にまだ成立していなかった中華人民共和国が常任理事国として拒否権を行使するのは滑稽ですし、戦勝国であるはずの蒋介石の中華民国は現在台湾ですが、国連は台湾の加盟を認めていません。

国連にお金をいっぱい出し続けて「常任理事国にして欲しい」と懇願している日本はどうなのでしょうね?日本人は政治家も含めて国連が好きですね、「国際」が付いているからでしょうか?

ニューヨークに赴任した頃(20年ちょっと前)、国連のコンピューターシステムのサポートで、42丁目の国連ビルに行きました。EBCDIC文字コードを使うIBMシステム上でのダブルバイトの処理(言語処理)に関して質問が来たのです。英数字は、8ビット(1バイト)で一つの文字を表しますが、日本語は16ビット(2バイト)で一つの文字を表現します。今より20数才若いミーハーの私は「国連の建物に入れる!」と物見遊山で出かけて行きました。

職員食堂とか一般の参観者が立ち入れないようなところを案内してもらったあと、仕事の話になりました。そこで驚いたのは、ダブルバイトは日本語のことではなく、中国語やアラビア語のことだったのです。私はこの時はじめて日本語が国連の公用語の一つでないことを知りました。国連の公用語は、英語、ロシア語、中国語、フランス語の第二次世界大戦の戦勝国の言語に、世界中の多くの国で話されているアラビア語とスペイン語を加えた6カ国語 だったのです。

潘基文事務総長の来日を機に、子供たちと一緒に「United Nations」を調べてみるのはいかがでしょうか? 学校では教えない新たな発見があるかもしれませんよ。

外務省HPより
(単位:百万ドル 出典:国際連合資料 国連通常予算分担率・分担金額)



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2010年8月4日水曜日

三島由紀夫

去年の夏、帰国のために本の整理をしていたら、橋本治の「三島由紀夫とはなにものだったのか?」という文庫本が出てきました。引越しの最中に読んでみました。 私が言うなんて「身の程をわきまえない」ですが、橋本さんは三島由紀夫に嫉妬しているのではないかと感じました。ちなみにこの評論は第1回小林秀雄賞を受賞したそうです。 つまり、この三島由紀夫評論は非常に高く評価されているということです。

「三島由紀夫とはなにものだったのか?」の中で、「三島には明治時代に対する憧れとか天皇制思慕がある」と言っていますが、私はそうじゃないと思います。三島の視点は、万葉の世界までさかのぼっています。戦後の日本で「日本の価値観」とか「日本の美学」がなくなったことを悲しんで憤っているような感じがするのです。「戦後の日本は空っぽの世界になってしまった」と。これは軍国主義復活を言っているのではなく、もっと精神的なもの(絶対的価値観)の復活だろうと思います。 文学作品や戯曲を通じて日本や日本人を考えに考えたのだろうと思うのです。

夏目漱石は、形式だけを真似ても中味が伴わない明治をユーモアたっぷりに批判しています。批判するにもユーモアがあるのがいいですね、夏目さん好きですよ。しかし、私は明治時代は物質的に貧しくても結構よかった時代だったんじゃないかと思っています。皆が国を近代化するために一生懸命になった時代で、確かに2つの戦争や暗い事件はありましたが、精神的には向上心いっぱいで、前向きに生きた時代ではないかと思うのです。イギリスを見てきた夏目漱石には、明治の日本は地に足がついていないと映ったのでしょうね、腹立たしい気持ちがあったのでしょう。「中味と形式」は漱石一流の愛国心の表現だと思います。

毎年8月になると私の頭の中は三島由紀夫になります。なぜでしょうね?

三島由紀夫は、自分の死を完全に計算し尽くして、自分の書いたシナリオ通りに主人公を演じ自刃したのだろうと思います。三島が死んだのは11月25日ですが、私の中では、8月15日と三島由紀夫はつながってしまうのです。それは、ミッドウェー、ガダルカナル、インパール、レイテ、沖縄や広島、長崎の一つ一つが、「悲哀」ということで三島由紀夫の死とつながるからだと思います。

マッカーサー呪縛世代やその後の団塊世代の人たちにとっては、三島由紀夫は目立ちたがり屋のコンプレックスのかたまり、ファナティックな右翼作家であるほうが都合がいいのかも知れません。今の日本には「醒めたインテリ」が政財界、文学界、日本の至る所にいるんじゃないだろうかと思います。三島由紀夫が憂いたことは、彼が死んだ昭和45年(1970年)よりも、今の日本のほうがもっともっと増幅されているでしょう。もしかしたら、すでにリカバリー不能なところまで来ているのかもしれません。

敗戦後65年を経て、国のかたちがどんどんぼやけていく日本はどこにたどり着こうとしているのですかね? みんな、あまり関心ないんでしょうね、たぶん。


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2010年8月3日火曜日

中国語で「知道」とは?

中国語は英語よりも日本人にとって習得しやすい外国語だと思います。漢字だからですね。現在、中国(大陸)で使われている簡略化された漢字(簡体字)は何とも興ざめですが、従来の漢字(繁体字)は視覚的に多くを語ってくれます。趣があっていいですね。

弊社には中国語の達人である日本人コンサルタントが何名かいます。彼らは通訳ではありませんので、コンサルティング業務を中国語で行います。すごいですね。F君もその一人です。週末、F君が会議のために北京から東京に戻ってきたので話をしました。面白いことを教えてくれたのでご紹介します。

中国語で「知道」(zhi dao)と言うのは、知っている、分かっている、心得ているという意味です。

① 不知道、不知道。分かっていないということを、知らない
② 知道、不知道。分かっていないということを、知っている
③ 知道、知道。分かっている部分を、知っている(自覚している)
④ 不知道、知道。分かっている部分を、知らない(知らないと思っていたが、本当は分かっていた)

以下は、F君の解釈です。

①は、仕事を多少経験して、「俺はデキルなぁ」と思っている状態。クライアントから見ればまだまだで、上司から見ればちょっとヤッカイ。日本のゆとり世代や中国の「80後」(1980年以降の生まれ)に多く見られる傾向。

②は、壁に何度かぶつかることによって、問題を環境や他人のせいにせず、自分の問題として考えることができるようになり、「自分はまだまだだなぁ」と思っている状態。クライアントから見ればやはりまだまだ、ただし上司は「こいつは伸びてきている。可能性がある」と思っている。素直な人がこの状況にたどり着くのが早い。

③は、素直に学び続け、「自分も少しは価値が出せるようになった」と思っている状態。これは、自分が出来る部分を知っていると同時に、出来ない部分も分かっている。この段階になると部下もいて、上司からは「任せても大丈夫」と思われている。

④は、様々な経験を積み重ね、悩み、幅広く物事を考えた結果、「自分は欠点だらけだ」と思っている状態。本当の実力は相当なもので、周りは一目置いている。ただし、自分の目標や理想が高いため(高いという認識もないことが多い)、満足していない。自分の価値を全て部下に伝えられないが、謙虚さは③より高く、周りから(特に部下から)敬遠されない。この上司から学べるかは部下の能力にもよる。

ここまで読んで頂けましたか? 「知」、「道」、「不」という3つの漢字の組み合わせで、これだけ多くのことを説明できるのですね。

「多謝!(duo xie)」。

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