
高市さんは橿原市の出身。
自民党の総裁に高市早苗さんが選ばれました。歴代初の女性総裁であり、事実上、日本初の女性総理が誕生したことになります。アメリカに先んじて女性リーダーを迎えたことは、国際社会に大きな驚きを与えるでしょう。しかし、この出来事を単なる「男女平等の象徴」として消費してしまうのは、やや短絡的ではないでしょうか。
私はアメリカにほぼ20年暮らし、アメリカ企業で働いてきました。その経験から言えば、アメリカはあらゆるカテゴリーに差別が存在する社会です。格差の広がりも凄まじく、人種・性別・宗教・階層といった要因で壁が立ちふさがります。それに比べると、日本は驚くほど平等な社会です。格差社会へと少しずつ変貌してきたとはいえ、アメリカや中国と比べたら日本ははるかに公平で、格差の少ない社会だと断言できます。
近年はLGBT法案も注目を集めています。私がNYで働いていた頃、直属の上司がゲイの男性でした。しかし、その事実を特別に意識したことは一度もありませんでした。当時は「LGBT」という言葉すら一般的でなかったのにです。結局のところ、性的少数者は紀元前から存在してきたのです。アメリカが2000年以降、急速にジェンダーフリーに舵を切ったのは事実ですが、その副作用として優秀な人材が社会の表舞台から退くような現象も見受けられました。自由と民主主義の行き過ぎが、社会の健全なバランスを壊すこともあるのです。
こうした問題に対して、エマニュエル前駐日米大使は「同性婚は日本の未来への前進だ」と発言しました。しかし私は思います。日本には日本の価値判断の基準があるのではないか、と。欧米社会は「差別が前提」であり、そのために法律で規制するという仕組みをつくっています。けれど日本はそもそも差別の強度が弱く、自然と人間を二元論で分けるのではなく、自然と共生しながら独自の価値観を育んできました。そこに欧米型の「法律による規制」をそのまま持ち込むのは、むしろ違和感があります。
もちろん、日本にも課題はあります。事なかれ主義、当事者意識の欠如、危機に直面したときの脆さ。コロナ禍下でそれが露呈しました。また、日本人は「共同主観の模索」が苦手です。つまり、主観と客観を行き来しながら議論を深めることが不得手で、そのためリーダーシップの不在が際立ちます。それでも、欧米のように差別を「前提」にして制度を積み上げるのではなく、人間と自然の因果を一体として受け止める日本的発想を忘れてはならないと思うのです。
世界は本来、平等ではありません。程度の差はあれ、どこに行っても格差や差別は存在します。むしろ、日本は世界で最も平等に近い社会のひとつでしょう。その中で「何が何でも男女平等」と叫ぶ声には違和感を覚えます。人生を生きるということに男女の差はなく、それぞれが自らの美意識、人生の物差しを持てばよいのです。ビジネスの世界で優秀で魅力的な女性は、家庭でも有能な母であり、同時に社会を支える存在である。これは決して矛盾ではなく、日本の強みでもあります。
北一輝は男女平等を主張しましたが、それは「断じて同一の者に非ざる本質的差異」を前提としていました。男と女は物理的に異なり、それぞれにしかできない役割もある。互いに理解できない現実を認めつつ、それでも折り合いをつけて共に生きる努力をする――そこに本当の意味での「平等」があるのではないでしょうか。
一方で、男女雇用機会均等法や男女共同参画社会基本法が掲げる「法律で男女を同一に扱う」という発想には危うさを感じます。それは本質的差異を無視し、国民を「全体主義の奴隷」として均一化してしまう危険があるからです。日本はもっと多様で柔軟な国柄であってよい。
教育に関しても同じです。子供たちには「世の中は平等ではない」という前提を教えるべきです。その中で試行錯誤し、失敗から学び、精神的に強くなること――Be Mentally Strong!――こそが必要なのです。立川談志師匠は「努力はバカに与えた夢だ」と語りましたが、師匠自身は人一倍努力を重ねました。天才でない限り、人と同じことをしていたら人と同じようにしか生きられない。だからこそ、自分の個性を磨き、強く生き抜くしかないのです。
高市総裁誕生という歴史的出来事を「男女平等」の勝利として称えるのも一つの見方です。しかし私は、それ以上に「日本には日本の平等観がある」という事実を大切にしたいと思います。日本的な価値観を思い出し、自然との共生、人間の差異を受け入れる感覚を未来へ引き継ぐこと。それこそが、これからの時代に必要な「平等」の姿なのではないでしょうか。
追)高市氏の出身高校は私の本籍地と同じ町内であり、橿原市の初代市長が私の親族であるという偶然の符合があります。とはいえ、私は特定の政治家を称賛する意図はありません。むしろ、この出来事を通して「日本的平等観」を改めて考える契機としたいのです。
***
0 件のコメント:
コメントを投稿