時間を守る、約束を守る、嘘はつかない。——これをひたすら繰り返すだけです。たったそれだけのことなのですが、長年にわたって実行するのは案外むずかしいものです。けれど、愚直にやらない限り、信頼関係は築けません。
社会人になりたての頃の私は、何のスキルもなく、自分にどんな価値があるのかさえ分かりませんでした。上司やクライアントに振り回されるのも嫌だし、できれば気分よく毎日を過ごしたい。そんな私にできたことといえば、約束の時間よりずいぶん早く現場に行くことだけでした。
——絶対に遅れない。
若い自分に与えられた価値なんて、せいぜいその程度だと思うようにしていたのです。
もちろん、「早く着きすぎて時間の無駄だ」と揶揄されたこともありました。しかし、「無駄と余裕」が信条の私としては、むしろそれでいいと思っていました。余裕を持って行動することが、自分の小さな誇りであり、自己肯定感の源でもあったのです。それに、早く着くと、意外にいろんな発見があります。誰もいない会議室の静けさとか、掃除中のおばさんたちとの小さな会話とか。
世の中には、「時間に遅れて慌てる夢」にうなされる人がいます。心理学的には、それは苦手意識やコンプレックスの反映だそうです。
もちろん、「早く着きすぎて時間の無駄だ」と揶揄されたこともありました。しかし、「無駄と余裕」が信条の私としては、むしろそれでいいと思っていました。余裕を持って行動することが、自分の小さな誇りであり、自己肯定感の源でもあったのです。それに、早く着くと、意外にいろんな発見があります。誰もいない会議室の静けさとか、掃除中のおばさんたちとの小さな会話とか。
世の中には、「時間に遅れて慌てる夢」にうなされる人がいます。心理学的には、それは苦手意識やコンプレックスの反映だそうです。
私は幸いにも遅刻する夢を見たことはありません。
その代わりに、時々見る悪夢が二つあります。
ひとつは、ステージ上で幕が上がり、満員の観客の前に立っているのに、まったく弾けない。曲もよく知らず、練習もしていない。真っ青になって固まっている夢。
もうひとつは、シカゴ・オヘア空港のターミナル間をつなぐ長い長い連絡通路を、永遠に走っている夢です。どこにも出口がなく、ゲートの表示だけが無限に続く。これがまた、なかなかの地獄です。
この二つの夢は、現実でのプレッシャーや、自分の能力に対する不安を反映しているのかもしれません。結局のところ、夢を変えるには現実の行動を変えるしかないのです。夢が心の状態を映す鏡なら、日々の現実を少し変えることで、その鏡に映る景色も変わるかもしれません。
……と、話がそれましたが、言いたいことはひとつ。
信頼関係の構築とは、愚直に「時間を守る」「約束を守る」「嘘をつかない」この3つを繰り返すこと。どの時代でも、どこの国の人とでも、これに例外はありません。
人間社会の根本は、「対等な信頼関係を維持する責任」です。
約束を守る、嘘をつかない、時間(期限)を守る。これは国家でも会社でも個人でも同じです。ところが今、こうした「正統(legitimacy)」が崩れている。理念や目的を失えば、国も会社も人も信用されない。だからこそ、日本がまず考えるべき基本姿勢(政治も教育も企業経営も)は明らかだと思うのです。
ご承知の通り、日本の野党はどうにも締まりがありません。結果、与党も成長しません。筋が通っていないのです。日本では「コンフリクトを避け、効率よく時間を節約する」ことが賢いとされていますが、実はそこに落とし穴があります。アメリカは無茶苦茶ですが、少なくとも与党も野党も黙ってはいません(お互い独善的すぎますが)。
日本は「対等な信頼関係を維持する責任」に気づくことができるか?
アメリカは分断を抱えながらも、なおコンフリクトをマネージし、「compromise(歩み寄り)」できるのか?
「ラポール(Rapport)」という言葉は、フランス語で「橋をかける」という意味です。心理学では、セラピストとクライアントの間に生まれる心の通い合いを指しますが、ビジネスや教育、介護にも共通する概念です。つまり、相手と橋をかける——信頼を築くことです。
そしてこの「ラポール」という考え方は、 “interbridge” という言葉にも通じます。文化や立場の違いを超えて、橋をかけること。
成功しても、失敗しても、続けることが大事です。
時間を守る、約束を守る、嘘をつかない。これを10年、20年と続ければ、その人の「信用スコア」は自然に上がる。一見、初歩の初歩のようですが、これは人種や性別、世代を超えて通用する普遍のルールです。
日本の会社や人々は、「相手も自分と同じ前提に立っている」と思い込みがちです。でも本当に大事なのは、「同じレベルではない」ことを前提に対話を始めること。若い頃から「概念」を共有し、前提を確認する習慣を持たなければ、対話は成立しません。
信頼とは、つまり「橋をかけること」。
その橋は、一瞬ではなく、長い時間をかけて少しずつ補強していくものなのです。
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