小学校で「絵日記」を書くことの意味を、私たちは意外なほど軽く見ているのではないでしょうか。印象に残った場面を絵に描き、その説明を短い文章でまとめる。単純な宿題に見えますが、実はこの作業こそが「情緒的な思考」と「論理的な思考」をつなぐ最初のステップなのです。
小学校のうちに、感情や経験を言葉に置き換えて表現する練習をしておかないと、後に論理的思考へと発展していきません。ましてや、抽象的な概念を使って論文を書くなど到底無理なのです。社会人になってから求められるのは、専門的な知識をもとに自分の考えを体系的にまとめ、他者に説得力をもって伝える力です。その基礎は、実は「絵日記」にあります。
柳田国男に学ぶ「ふりかえり」の力
民俗学者・柳田国男は「青年と学問」(岩波文庫)で次のように書いています。
「自分たちの学問は、いつまでたっても改良と訂正とが必要である。これを印刷に付するのは、このまま信用せられんがためでなく、むしろ自分も読者諸君とともに後日虚心平気にもう一度これを批評せんがためである」。
自分の過去の考えを、年月を経て改めて見直す。これこそが「学び」の原点だと柳田は言うのです。私自身も、10年、20年、30年前に書いた日記を読み返すことがあります。そこには、変わった部分もあれば、相変わらず同じことをグダグダと繰り返している自分もいる。絵日記も同じで、「あの時自分は何を感じていたのか」をたどる手がかりになります。書くこと、描くことは、自己をふりかえる習慣なのです。
鉄人28号と絵を描く力
私が小学生低学年だったころ、夢中で「鉄人28号」の絵ばかり描いていました。リモコン次第で悪人の手先にもなる鉄人28号のほうが人間くさい鉄腕アトムよりも好きでした。音楽でいえば、ビートルズよりローリング・ストーンズが好きなのと似ています(本当は両方好きですよ!)。子どものころは、夢中で絵を描いては次々に興味が移っていったものです。
今思えば、あの頃に「描く」ということを通じて、無意識のうちに観察力や構成力を身につけていたように思います。文系・理系を問わず、絵を描くことは思考の基本です。頭の中のイメージを形にする力、つまり「構造化する力」です。ビジネスの世界でパワーポイントの図解をつくるのも、絵日記の延長線上にあります。絵心がある人は、複雑な情報を整理してわかりやすく伝えることができるのです。
絵日記はプレゼンテーションの原点
絵日記の構成をよく考えてみましょう。
「絵」=ビジュアルで印象を伝える要素。
「文章」=説明で補う言語的要素。
これはそのまま「ビジネスプレゼンテーション」の構成と同じです。
子どもが描いた絵を説明するとき、「どうしてそれを選んだの?」「何がいちばん印象に残ったの?」と聞いてあげると、子どもは自分の考えを自然と整理し、言葉にしていきます。このプロセスは、将来の「プレゼン力」を育てる練習です。しかも、親子の対話を通して進めることで、コーチングの実践にもなります。絵日記は、子どもの言葉を引き出す“家庭の小さなプレゼン研修”なのです。
「物語」としての自分を語る
人生とは、ひとりひとりの物語です。自分という主人公がどこに立ち、何を感じ、どう行動してきたのか――それを語る力が「大人になる」ということだと思います。
絵日記は、その第一歩になります。自分を少し距離を置いて見つめ、「あの日の自分はこう感じていた」と言語化する。この「布置化(ふちか)」、つまりコンステレーションの習慣が、自分の思考や行動を客観視する力を育てます。後にこれが、仕事での自己省察やチーム内でのコミュニケーション力につながっていくのです。
多くの人と関わり、語り、ふりかえる。その積み重ねが「人生のビジョン」を形づくります。信頼や尊敬は、時間を共有するなかで生まれるのです。絵日記は、その原型として自分と他者をつなぐ訓練の場でもあります。
感情を言葉にする力は一生の財産
「楽しかった」「きれいだった」だけでは、もったいない。絵日記では、限られた言葉で自分の気持ちを表現しなければなりません。「風が気持ちよかった」「心がドキドキした」――そうした表現の中に、子どもの感性が息づきます。短い中に情緒を込めるという点では、俳句や短歌にも通じます。短いと言っても、スマホによるチャットの交換ではないですよ。この訓練が、「自分の感情を言葉にする力」を養い、将来の社会生活で必ず役立ちます。
現代社会では、SNSやプレゼンテーション、自己紹介など、あらゆる場面で「自分を言葉で表現する力」が求められています。絵日記で育つ言語化能力は、一生もののスキルです。
「もう一人の自分」を持つトレーニング
カーリングの藤沢五月選手は、自分の心に「もう一人の自分」を宿すトレーニングをしているそうです。これは心理学で「メタ認知能力(meta-cognitive ability)」と呼ばれるもので、自分を客観的にふりかえる力のことです。スマホ依存が進む現代社会では、この力がますます重要になります。
実は、絵日記や日記を書くという行為そのものが、この「もう一人の自分」を育てるトレーニングでもあります。自分の思考や感情を見つめ直す時間を持つこと。それが人間の成熟に欠かせない要素なのです。
ibgノートという“ふりかえり”のツール
10年ほど前に、この考えをもとに「ibgノート」を作りました。A4横サイズ、白いダブルリング綴じ、KPT(Keep/Problem/Try)方眼フォーマット付き。ビジネスコンサルタント用に設計しましたが、実はお子さんの絵日記や雑記帳としても使えます。
上のページに絵を描き、下のページに「よかったこと」「よくなかったこと」、そして右に「やりたいこと」を書く。親子でふりかえる時間を持つことで、会話が生まれ、考える力が育ちます。絵日記は子どもの教育だけでなく、企業のコミュニケーションにも通じる――そんな思いを込めたノートです。
絵日記は、情緒と思考をつなぐ最初の架け橋です。
そしてそれを続けることが、「自分を語り、自分を成長させる」ための、最もシンプルで確実な方法なのです。
子どもが描いた絵を説明するとき、「どうしてそれを選んだの?」「何がいちばん印象に残ったの?」と聞いてあげると、子どもは自分の考えを自然と整理し、言葉にしていきます。このプロセスは、将来の「プレゼン力」を育てる練習です。しかも、親子の対話を通して進めることで、コーチングの実践にもなります。絵日記は、子どもの言葉を引き出す“家庭の小さなプレゼン研修”なのです。
「物語」としての自分を語る
人生とは、ひとりひとりの物語です。自分という主人公がどこに立ち、何を感じ、どう行動してきたのか――それを語る力が「大人になる」ということだと思います。
絵日記は、その第一歩になります。自分を少し距離を置いて見つめ、「あの日の自分はこう感じていた」と言語化する。この「布置化(ふちか)」、つまりコンステレーションの習慣が、自分の思考や行動を客観視する力を育てます。後にこれが、仕事での自己省察やチーム内でのコミュニケーション力につながっていくのです。
多くの人と関わり、語り、ふりかえる。その積み重ねが「人生のビジョン」を形づくります。信頼や尊敬は、時間を共有するなかで生まれるのです。絵日記は、その原型として自分と他者をつなぐ訓練の場でもあります。
感情を言葉にする力は一生の財産
「楽しかった」「きれいだった」だけでは、もったいない。絵日記では、限られた言葉で自分の気持ちを表現しなければなりません。「風が気持ちよかった」「心がドキドキした」――そうした表現の中に、子どもの感性が息づきます。短い中に情緒を込めるという点では、俳句や短歌にも通じます。短いと言っても、スマホによるチャットの交換ではないですよ。この訓練が、「自分の感情を言葉にする力」を養い、将来の社会生活で必ず役立ちます。
現代社会では、SNSやプレゼンテーション、自己紹介など、あらゆる場面で「自分を言葉で表現する力」が求められています。絵日記で育つ言語化能力は、一生もののスキルです。
「もう一人の自分」を持つトレーニング
カーリングの藤沢五月選手は、自分の心に「もう一人の自分」を宿すトレーニングをしているそうです。これは心理学で「メタ認知能力(meta-cognitive ability)」と呼ばれるもので、自分を客観的にふりかえる力のことです。スマホ依存が進む現代社会では、この力がますます重要になります。
実は、絵日記や日記を書くという行為そのものが、この「もう一人の自分」を育てるトレーニングでもあります。自分の思考や感情を見つめ直す時間を持つこと。それが人間の成熟に欠かせない要素なのです。
ibgノートという“ふりかえり”のツール
10年ほど前に、この考えをもとに「ibgノート」を作りました。A4横サイズ、白いダブルリング綴じ、KPT(Keep/Problem/Try)方眼フォーマット付き。ビジネスコンサルタント用に設計しましたが、実はお子さんの絵日記や雑記帳としても使えます。
上のページに絵を描き、下のページに「よかったこと」「よくなかったこと」、そして右に「やりたいこと」を書く。親子でふりかえる時間を持つことで、会話が生まれ、考える力が育ちます。絵日記は子どもの教育だけでなく、企業のコミュニケーションにも通じる――そんな思いを込めたノートです。
絵日記は、情緒と思考をつなぐ最初の架け橋です。
そしてそれを続けることが、「自分を語り、自分を成長させる」ための、最もシンプルで確実な方法なのです。
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