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Super Galapagos
In a world driven mad by tech disruption, Japan’s having fallen behind is a superpower
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しかし実際には、世界の狂騒から距離を置いた“スーパー・ガラパゴス”として、独自の強みを発揮している――これが、アメリカ人作家マット・オルト氏の記事の要旨です。
かつて日本は「未来を先取りした国」として世界の羨望を集めていました。『ブレードランナー』の近未来都市像も、東京がモデルでした。しかし2007年、iPhoneの登場を境に状況は一変します。日本のメーカーが独自規格にこだわり、世界市場から取り残された「ガラパゴス症候群」と呼ばれたのです。
ところがオルト氏は、その“遅れ”を敗北ではなく「静かな勝利」だといいます。なぜなら、iPhoneそのものが、日本の生活文化――携帯メール、絵文字、女子高生文化、ポータブル音楽――の延長線上にあるからです。スティーブ・ジョブズがソニーを深く敬愛し、「iMac」を「MacMan」と名付けようとしていたという逸話も象徴的です。つまり、世界が「発明」と呼んだものの多くは、日本がすでに日常の中で育てていたということです。
この“スーパー・ガラパゴス”というあり方を、文化の面で体現しアメリカで成功した人物がいます。それが、片づけコンサルタントの近藤麻理恵さんです。近藤さんは、もともと世界進出を狙っていたわけではありません。日本人の生活の中に根づいた「清らかさ」や「ものへの感謝」を形にしただけでした。ところが、その素朴な哲学が、アメリカの過剰な消費文化の反動として強く響いたのです。
「ときめくかどうか」という、極めて日本的で感覚的な基準。モノをただの所有物ではなく、心を映す鏡として扱う態度。それらが、物質主義に疲れたアメリカ人にとって、まるで禅のような“精神の整理術”として受け入れられました。Netflixの番組が世界的にヒットし、「KonMari(こんまり)」という言葉が英語の動詞として使われるようになったのも象徴的です。
もっとも、近藤さんがアメリカで支持された背景には、アメリカ人が大好きな「自己啓発文化」との親和性もありました。出版不況の中でも自己啓発本が売れ続けるのは、まさに“アメリカ的信仰”の証しです。英語で「con man」とは、“confidence(信頼)”を売る詐欺師のこと。自己啓発産業は、この「信頼を売る」文化と紙一重です。テレビ伝道もライフコーチも、宗教というより自己啓発ビジネスであり、多くの「ポジティブ産業」(前向き信仰を商材化するビジネス)は、人の不安を商品にしています。アメリカ的自己啓発本は、しばしばcon manを速成するマニュアルでもあるのです。
その点、近藤さんの「ときめき」の思想は、それとは対極にあります。彼女は“成功”を売らず、“整うこと”を伝えた。声を張り上げて前向きを強要するのではなく、静かに「モノと向き合う」ことを勧めただけでした。それが結果として、自己啓発に疲れたアメリカ人の心に響いたのです。近藤さんの成功は、決してグローバル志向の産物ではありません。むしろ「日本の内側」にある感性を徹底的に磨き抜いた結果、自然と外の世界が惹きつけられた――これこそが、スーパー・ガラパゴスの本質だと思います。
私たち日本人がまず考えるべきは、どこが日本独自の強みなのかを理解することです。でなければ、外敵に浸食され、“ガラパゴス”は単なる観光地になってしまうでしょう。ハッカーとの闘いがそうであるように、文化の攻防もまた永遠のイタチごっこです。セキュリティを強化すれば、ハッカーの技術も高度化する。技術や思想の世界も同じです。だからこそ、いちばん賢い進化とは、競争を降りることなのかもしれません。
日本のポップカルチャー――アニメ、漫画、ゲーム――もまた、世界を意識して作られたものではありません。すべて「日本人が日本人のために」生み出したものでした。それが結果として、世界の心をとらえたのです。ガンダムの富野由悠季監督が「政府が“クールジャパン”を推進した途端、創造性は死ぬ」と語ったのも象徴的です。ヒット作は官僚の会議室からではなく、個人の情熱や現場の偶然からしか生まれません。
ガラパゴスとは、孤立の名を借りた自由です。そして、喧騒を拒んでなお、じっと考える葦の群れです。
世界の潮流に乗り遅れても構いません。少し遅れて笑うくらいが、ちょうどいいのです。そこにこそ、日本の「スーパー・ガラパゴス」としての強さがあるのだと思います。
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