2025年8月18日月曜日

アンビバレントな幼児性 ~ 成長できない社会と政治への疑問

 

NHK 2025年8月12日 19時00分


通常、人は矛盾する二つの感情や価値観を同時に抱くことがあります。心理学ではこれを「アンビバレント」と呼びます。たとえば、ある出来事に対して好きでもあり、嫌いでもあると感じる状態です。本来、人間はこのアンビバレントな感情をうまく調整し、全体としてバランスの取れた人格を形づくっていきます。それが「成長」です。

ところが今の日本を眺めると、このアンビバレントを調整できないまま、ただ矛盾を抱え込んでいる大人や組織があまりに多い。まるで幼児の延長線上にあるように見えるのです。教育の出発点は、本来この「アンビバレントな幼児性」からの脱却にあるはずなのに。

福澤諭吉は「智徳と人間交際を高め、禽獣の世界から文明に近づけるのが教育である」と言いました。智徳の「智」は手段やツールにあたるインテリジェンス、「徳」はモラル。そして「人間交際」は、社交性やコミュニケーションのことです。これは人と人との関係だけでなく、国家間の外交の根っこにも関わるものです。

しかし現代の日本は、「Where do you want to go?(目的)」が定まらないまま、手段やツールばかりにしがみついています。智徳のバランスは崩れ、智に偏重し、徳は軽視され、人間交際は自己中心的。結果として「他者が見えない社会」になりつつある。その一因は教育にありますが、もう一つ大きいのがマスメディアの影響です。

その象徴が「世論調査」です。私は学生時代、朝日新聞の世論調査のアルバイトを経験しました。兵庫県全域を回り、アポをとって家庭や工場の寮を訪ね歩いたのですが、回答者は偏り、設問は誘導的で、調査の精度はお粗末なものでした。半世紀前から「これは偽善だ」と思っていたのに、いまだにありがたそうに報じられている。驚くというより、もう呆れるしかありません。

今回もそうです。石破内閣の支持率38%と報じられました。新聞やテレビもさすがに「支持率回復!」とは書きません。書いても信じる人はいないし、出している側も中身が偏っていることを知っているからです。実際、その38%の多くは高齢者に偏っていて、若い世代の声はほとんど入っていない。未来を担う層が排除されたままの数字を「国民の声」と言い張るのは、どう見ても欺瞞です。

しかも、38%が「支持」なら62%は「支持しない」か「わからない」。ビジネスに例えれば、顧客アンケートで6割以上が不満を示しているのに、経営陣が「市場から高評価を得た」と胸を張るようなものです。まともな会社なら経営陣は即座に退任です。それを「まだ支持されている」と勘違いする総理と閣僚がいる。与党議員の多くは、次の選挙を意識して「いつドロ船を逃げ出そうか」と計算しているでしょう。本気で自分が支持されていると信じているのなら――残念ですが、幼稚園からやり直すしかありません。     
   
***

0 件のコメント:

コメントを投稿