アダム・グラント教授の著書『Hidden Potential』には、次のような一節があります。
完璧さというのは幻想である。いずれ目指すゴールに到達したければ、その事実を理解し、ある程度の不完全さを受け入れることを学ぶ必要がある。
この言葉は、アメリカのエリート層、とりわけ難関大学に進学するような若者に向けたメッセージだと解釈できます。失敗を嫌い、完璧を求めすぎるがゆえに、最終的に成長が阻害される――アメリカの高学歴層に実際に見られる現象です。しかし、一つ注意すべきことがあります。このまま日本の若者にコピー&ペーストして当てはめてしまうことは、必ずしも正しいとはいえないということです。
なぜか。問題の根底にある価値観が、日本ではアメリカとはまったく異なります。
アメリカの心理学と日本の現実は違う
アメリカの心理学は基本的にデータと統計に支えられています。個人のパフォーマンス、キャリア、モチベーションの研究も定量化されるのです。対して、日本に根づく心理学・教育観は、より深層心理的で精神文化的な文脈を含みます。しかし、ここ何十年も、日本ではアメリカ発の自己啓発がほぼ原文のまま「輸入」されています。
その結果、次のような問題が起きていると思います。
- 優秀さの基準が他国のものに置き換わってしまう
- 成果主義や自己効力感の議論だけが強調される
- 「自分とは何者か」を問う文脈が欠落する
- 試練を経験する過程より結果だけが重視される
私は長年アメリカと中国で仕事をしてきました。そこで確信したことが一つあります。
日本の若者の弱点は、能力でも知性でもない。
逆境や試練に対する耐性が弱いことだ。
人生は試練の連続です。仕事でも人生でも、「理不尽」は必ずやってくる。完璧主義どころか、むしろ挫折に遭遇した瞬間に崩れてしまう例を少なからず目にしてきました。これは個人の資質の問題というより、教育や社会の仕組みがそうさせている部分が大きい。
冒頭のスライド(30年ほど前に作成したもの)では、試練への対応から自尊心が形成されるプロセスを示しています。
- 自分から飛び込む試練もある
- 無理やり降ってくる試練もある
- うまくいく時も失敗する時もある
- しかし重要なのは「逃げずに対応すること」
「完璧を求めるな」ではなく「逃げるな」
グラント教授の主張を日本の現状に合わせて読み替えるなら、こうなります。- 完璧を求めなくてもいい
- しかし、試練は避けてはいけない
上手に人を頼ればいい。試練は一人で戦う必要はない
もちろん、全てを独力で切り抜ける必要はない。困った時に支援を求めることは、弱さではない。むしろそれは成熟の証なのです。- 友人の助けを借りればいい
- 先輩を頼ればいい
- 家族のサポートが必要なら言えばいい
もっと狡猾で、もっと強い若者を
私は日本の若者が世界で最もポテンシャルを秘めていると思っています。だからこそ言いたい。試練を避けるな。苦しみを成長に変えろ。
アメリカ人や中国人よりも賢く、逞しい若者が日本から育ってほしい。頼りない自己啓発書ではなく、自らの人生の試練を引き受けてほしい。人生は完璧に設計されたレールの上を走るものではない。むしろ混沌と理不尽をどう生き抜くかで決まる。なんだか、暑苦しい上から目線ですね、、、、。
そして最後にひとつ。今はちょうど感謝祭の季節です。
完璧とは、成功とは、幸福とは、誰かが決めるものではない。自分の人生に感謝し、自分だけの道を切り拓いていくことこそ、最大の成長です。
日本の若者には、その未来がある。私は心から期待していますよ!
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