2025年11月24日月曜日

沈黙の速度 ~ アメリカは 3 秒、日本は 8 秒

 
James Brown

ネットで面白い記事を見つけました。

「日本人は何秒まで沈黙に耐えられる?」――英会話学校が発信した、なんともユニークなテーマです。 

Preplyというオンライン英会話サービスが世界 21 か国を対象に調査したところ、日本人は 7.8 秒 も沈黙を許容できるという結果が出たそうです。

世界の平均が 6.8 秒ですから、意外にも“沈黙耐久レース”ではかなりの上位に食い込みます。 しかし、私がアメリカのコンサルティング会社で経験した沈黙の世界は、もっと過酷なものでした。あちらの許容時間は、なんと 約 3 秒。3 秒沈黙すれば、「議論についていけてない?」と判断されても仕方がありません。

1、2、3……はいアウト。

油断していると、沈黙は「無能」のラベルを貼るストップウォッチのように働きます。もちろん、これは会議だけではありません。カジュアルな会話でも同じです。バーで雑談している最中でさえ、アメリカ人はあなたの“間”を査定しています。

そこには、「常に考えているか」「問題意識があるか」「当事者意識は?」という、米国社会特有の価値観が透けて見えます。つまり、沈黙というのは単なる無音ではなく、“思考の密度が試される時間” なのです。

日本人は沈黙に強い? でもその意味はちょっと違う

調査によれば、日本人は 7〜8 秒の沈黙でも平気。これは決して「何も考えていない」のではなく、むしろ逆です。

日本文化では、沈黙は
  • 空気を読むための静かな余白

  • 相手への配慮を整える「間」

  • コミュニケーションの緩衝材

として働きます。

会議で沈黙したからといって「あいつ、無能だな」とは思われません。思われるとすれば、「あいつ、ちゃんと考えてるな」「慎重なんだな」 のほうでしょう。

ところが、アメリカ人にしてみれば、沈黙=通信障害。“Limbo”――宙ぶらりんで物事が決定せず、保留状態のこと。Wi-Fi が落ちたときと同じ顔をしてこちらを見てきます。

文化の違いとは、こういう微細な “間への態度” に最もよく表れます。

日本でも“沈黙への耐性”には地域差がある?

日本にも地域差があります。

とくに関西では沈黙の耐性は低く、対話のテンポが速い。
さらに、“正しい間” が要求される。

大阪のおばちゃんの会話のグルーブ感は、ファンクミュージックのゴッドファーザーであるジェームス・ブラウンのグルーブ感です。
決してアメリカ南部のカントリーウエスタンのリズムではない。

大阪の商店街で育った子供は、近所を徘徊するだけで自然と高度なコミュニケーション技術が身につくのですから、驚くべきことです。

ソーシャライズという言葉が示すもの

そもそも日本では “ソーシャライズ” という発想が希薄です。
ビジネスの場で必要最低限のやり取りができればOKという文化。

ところが英語圏では、ソーシャライズ(人間関係の社会的潤滑油)は
信用形成の入口 にあたる大事な行為です。

関係構築は雑談から。
その雑談は “沈黙” を許容しないスピーディなもの。
これが、海外で日本人が最初に戸惑うポイントでしょう。

「沈黙」は何を語っているのか?

沈黙の許容範囲の違いは、単なる秒数の問題ではありません。

それはその社会が

  • どんな速度で思考し

  • どんなリズムで信頼を築き

  • どんな価値を大切にしているか

という 文化の深層心理 を映し出しています。

ブラジルは 5.5 秒で気まずさを感じる。
アメリカのコンサル会社では 3 秒で沈黙に耐えられない。
日本は 7〜8 秒静かでも平気。

この違いを知っておくだけで、海外での誤解やトラブルは格段に減ります。

さらに言えば、大阪のおばちゃんレベルのグルーブ感が世界でも十分通じることがわかり、ちょっと誇らしい気持ちにもなります。

維新の会の吉村さんが大阪を強調するなら、身を切る改革よりも“大阪のおばちゃんのグルーブ感”ですよ!

沈黙は「空気」ではなく「文化」である

沈黙は、単なる無音ではありません。

それは文化がつくるリズムであり、会話の温度であり、人間関係の距離感そのものです。

そして、自分の “沈黙の秒数” を自覚することは、異文化コミュニケーションの第一歩であり、仕事でも雑談でも信頼形成でも、思った以上に重要な要素です。

沈黙が 3 秒の国で働くなら、頭の中に常に 小さな司会者 を飼っておく必要があります。大リーグのピッチ・クロックのような感覚です。

とにかく、次の言葉を準備し続ける。
アメリカでクビにならずに働くとは、そういうことなのです。

そして日本に帰れば、7〜8 秒の静寂が「落ち着くなぁ」と感じるかもしれません。

沈黙の国境線をまたぐたびに、自分の内部に別の時計が動き出す――
そんな感覚すら覚えるかもしれません。

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