病院とは、 私たちが日常もっとも非日常的な時間を過ごす場所です。 そこでは、患者は「個人」として尊重されながらも、 同時に医療の流れのなかに位置づけられ、 私的な感情よりも治療という共同の目的が優先されます。 医師や看護師もまた、一人の人間というより「役割( function)」としてふるまい、 専門職としての判断や対応が求められます。
とりわけ三次救急や高度急性期医療を担う“大規模病院”では、 社会の変化や制度のひずみがもっとも早く、 そして透明に表れます。人口構造の変化、人手不足、 医療の高度化、制度改革の影響── これらが病院という空間に凝縮され、廊下を歩くだけで、 社会の深層がにじみ出てくるように感じられます。
今回、 私が武蔵野赤十字病院で目にした光景も、単なる「 一つの病院の変化」ではなく、 現代日本の医療が抱える構造的な課題の縮図として、 とらえるべきものだと思いました。
この一週間、身内が救急搬送されたことをきっかけに、 私は毎日武蔵野赤十字病院に通っています。実は5〜6年前、 義母の介護・看病で同じ病院に何年も通った時期がありました。 その当時の記憶と現在の光景を重ね合わせると、 同じ病院でありながら、どこか空気が違うという感覚を覚えます。 その違和感が何から来るのか。観察を重ねるうちに、 武蔵野赤十字病院という“個別の場所”を超えて、 日本の医療が抱える構造が浮かび上がってきました。 若い医師や看護師が圧倒的に多いことです。 看護師も二十代前半と思われる人が増え、 十年前にはあまり見なかった光景です。
しかし、これは武蔵野赤十字病院だけの異変ではありません。 大規模病院が「教育・研修機能」を担うようになり、 若手が常に循環する構造が強まっています。さらに、 2024年に施行された「医師の働き方改革」 で時間外労働が厳しく制限され、 医療提供体制を維持するには若手を増やすしかなくなりました。 つまり、若い医療者の多さは“活気”の表れであると同時に、 医療制度の変化の結果でもあります。
武蔵野赤十字病院はいま何を抱えているのか
一週間の通院で見えた日本医療の「静かな危機」この一週間、身内が救急搬送されたことをきっかけに、
若い医療者が一気に増えた病院内
病院に入るとまず驚くのは、しかし、これは武蔵野赤十字病院だけの異変ではありません。
高齢スタッフが支える病院の下支え
一方、清掃、ベッドメイキング、車椅子の誘導、配膳など、若い医師と高齢スタッフが行き交う廊下は、
日本赤十字社全体が抱える経営難
では、病院経営はどうなのでしょうか。日赤グループは全国に90以上の病院を抱えていますが、
ただし、 この病院には「東京西部の高い人口密度」 という大きな強みがあります。 地方の日赤病院に比べると患者数が安定しており、 立地の良さに支えられているのは確かです。しかし、 それでも医療費・人件費の高騰は避けられません。 病院が自助努力だけで乗り越えるのは難しい時代になっています。 武蔵野赤十字病院は次の四つの課題を抱えていると感じます。
一週間の観察から見えた“静かな危機”
これらを踏まえると、① 若手中心の医療体制
若手が多く、現場は明るく活気がある。しかし裏を返せば、 経験が積み上がりにくい。重症患者を扱う病院にとって、 これは見過ごせない問題です。
② 高齢スタッフが病院の基盤を維持
清掃、配膳、誘導など病院の“動線”を支えるのは高齢者で、 その貢献は大きい。しかし、 持続性という点では明らかにリスクを抱えています。
③ 経営は「強み」と「弱み」の両面を抱える
立地と患者数の多さは強みである一方、 赤十字グループ全体が抱える政策医療への偏重は重い荷物になって います。
④ 危機はまだ“見えていない”
私が実際に見た限りでは、病院の雰囲気は悪くありません。 むしろ以前より若さがあふれ、明るさすら感じます。 しかしその裏側には、制度改革、人材不足、医療費増、 経営圧迫など、静かに進む危機が積み重なっています。 比較的まし”な病院に見えます。東京圏の需要、赤十字の看板、 若手の供給、大学病院的な研修機能―― これらが病院の体力を支えています。しかし、 その体力がいつまで持つのかは誰にもわかりません。 若い医師と高齢スタッフがすれ違う廊下の風景を眺めながら、 私は「この体制はあと何年持つのだろう」と何度も自問しました。
武蔵野赤十字病院は、いまの日本医療が抱える“静かな危機” をそのまま映し出す場所になっている──この一週間の通院で、 私は強くそう感じています。
若手が多く、現場は明るく活気がある。しかし裏を返せば、
② 高齢スタッフが病院の基盤を維持
清掃、配膳、誘導など病院の“動線”を支えるのは高齢者で、
③ 経営は「強み」と「弱み」の両面を抱える
立地と患者数の多さは強みである一方、
④ 危機はまだ“見えていない”
私が実際に見た限りでは、病院の雰囲気は悪くありません。
「まだまし」だが、それは永続する保証ではない
総合すると、武蔵野赤十字病院は日本の医療危機のなかでは“武蔵野赤十字病院は、いまの日本医療が抱える“静かな危機”
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