私自身、これまで何度か転職を経験し、また中途採用する側の面接も数多く行ってきました。その経験から言えば、採用の本質は第三者の眼ではなく、当事者同士の眼にあります。つまり、転職応募者と採用企業が「エコノミー」をどれだけ正確に理解しているかが鍵なのです。採用企業によっては、採用を担当する人事部が自社のエコノミーを十分に理解していない場合すらあります。コンサルティング会社とシステムインテグレーターとコンピューターメーカーでは、それぞれエコノミーが異なるということです。
会社には、それぞれ独自の「エコノミー=経済生態系」があります。組織の意思決定の速度、社内の信頼関係の構造、報酬体系のリアリティ、上司のタイプ、評価軸──それらが複雑に絡み合って、その会社の「エコノミー」を形づくっています。履歴書や面接では見えにくいこの「企業の本質」を、双方がどれだけ理解し、候補者がその中でどのように成果を出せるかをイメージできるか。それが最も重要です。
企業側は応募者を“スペック”や“経験年数”といった表層的な指標で評価するのではなく、その人が自社のエコノミーの中で、例えば90日間でどのようなパフォーマンスを発揮できるかを、具体的に想像すべきです。実際、採用のミスマッチの多くはスキルの問題ではなく、エコノミーへの理解不足によって起こります。
もちろん、第三者の助言や外部サービスは一定の役割を果たします。しかし、採用を本当に成功へ導くのは、当事者同士が同じテーブルで現実を共有しようとする誠実さです。採用とは“売り手”と“買い手”の取引ではなく、同じ船に乗り込むための共同作業なのです。
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