The Entertainer - 今年正月の録音です
コンマンの国から日本への警鐘
ロバート・レッドフォードが亡くなりました。
アメリカン・ニューシネマの代表作『明日に向かって撃て!』(1969年)や『スティング』(1973年)は、私が14歳前後の人格形成期に大きな影響を与えた作品です。少し後年になりますが、『大統領の陰謀』(1976年)も何度も観て、レッドフォードが電話で話す英語を必死にコピーしたことを思い出します。
ここでレッドフォードの映画史的な功績については評論家に任せたいと思います。私が触れたいのは『スティング』という映画と、そこに描かれた「アメリカの本質」です。
コンゲームはアメリカ社会の鏡
『スティング』が大ヒットした理由は、アメリカ人が心の底で「自分たちの社会はコンゲームの上に成り立っている」と理解しているからだと思います。
『スティング』が大ヒットした理由は、アメリカ人が心の底で「自分たちの社会はコンゲームの上に成り立っている」と理解しているからだと思います。
コンゲーム(confidence game)の“con”は「信頼」を意味します。コンマンとは、一瞬で信頼を勝ち取り、偽物を売りつける詐欺師のことです。アメリカ社会は、こうしたコンマンの物語を痛快に楽しみます。詐欺師が詐欺師を出し抜く、そのカタルシスがたまらないのです。
日本で言えば石川五右衛門に近いでしょうか。権力者をやっつける義賊だからこそ、人々は喝采します。アメリカの場合、それは「反知性主義」と呼ばれます。知性や権威そのものを否定するのではなく、知性と権力が癒着し、代々大金持ちが世襲していく構造に対する反感なのです。
だからこそ、トランプのような人物が現れても、アメリカ社会では「成り上がりもの」として否定されません。むしろ「一発逆転」の物語に拍手を送ります。ユーモアと話術さえあれば、どんな悪党でもヒーローになれるのがアメリカの伝統なのです。
自己啓発と「ポジティブ産業」
アメリカ人にとって宗教すら自己啓発の道具になっています。テレビ伝道も、多くの宗教家も、神学というよりは「ライフコーチ」であり、「ポジティブ産業」に近いのです。自己啓発本がアメリカで売れ続けるのは、社会そのものが「成功への道具」として宗教や思想を利用する土壌を持っているからだと思います。
出版不況の日本でも、自己啓発本が売れています。日本の読書嗜好も次第にアメリカ的になりつつあるのかもしれません。しかし、それは「con manを速成する手段」でもあることを忘れてはならないと思います。振り込め詐欺だけが詐欺ではありません。ポジティブ産業に酔ってしまえば、頭を冷やすことは難しいのです。
ニーチェは「一人ぼっちになって迷路を進むこと、新しい音楽を聞き分ける耳を持つこと」が意志の力であり、人間にとって大切だと説きました。福沢諭吉も、小林秀雄も、坂口安吾も、同じことを別の言葉で語っています。要は、自立して考える力なのです。
アメリカ人にとって宗教すら自己啓発の道具になっています。テレビ伝道も、多くの宗教家も、神学というよりは「ライフコーチ」であり、「ポジティブ産業」に近いのです。自己啓発本がアメリカで売れ続けるのは、社会そのものが「成功への道具」として宗教や思想を利用する土壌を持っているからだと思います。
出版不況の日本でも、自己啓発本が売れています。日本の読書嗜好も次第にアメリカ的になりつつあるのかもしれません。しかし、それは「con manを速成する手段」でもあることを忘れてはならないと思います。振り込め詐欺だけが詐欺ではありません。ポジティブ産業に酔ってしまえば、頭を冷やすことは難しいのです。
ニーチェは「一人ぼっちになって迷路を進むこと、新しい音楽を聞き分ける耳を持つこと」が意志の力であり、人間にとって大切だと説きました。福沢諭吉も、小林秀雄も、坂口安吾も、同じことを別の言葉で語っています。要は、自立して考える力なのです。
日本への警鐘
アメリカは中世を経ずに誕生した国であり、建国以来わずか250年の歴史しか持ちません。その成り立ちは「コンマンの国」だと言えるでしょう。自己啓発本、テレビ伝道、トランプ現象――すべては「信頼を売る詐欺」の延長線上にあります。
一方、日本には2600年の歴史があります。中世も近世も経験し、正統性を積み重ねてきた社会です。にもかかわらず、戦後80年でアメリカに隷従し、その文化を無批判に取り入れてきました。
今の日本が生き残るためには、アメリカの模倣ではなく、アメリカに負けない知性を持つことだと思います。歴史の厚みからくる正統性の強さを自覚しなければならないのです。
ロバート・レッドフォードの死は、一時代の終焉を告げるニュースであると同時に、日本にとって「次の時代をどう生き抜くか」を考える契機でもあるのです。
アメリカは中世を経ずに誕生した国であり、建国以来わずか250年の歴史しか持ちません。その成り立ちは「コンマンの国」だと言えるでしょう。自己啓発本、テレビ伝道、トランプ現象――すべては「信頼を売る詐欺」の延長線上にあります。
一方、日本には2600年の歴史があります。中世も近世も経験し、正統性を積み重ねてきた社会です。にもかかわらず、戦後80年でアメリカに隷従し、その文化を無批判に取り入れてきました。
今の日本が生き残るためには、アメリカの模倣ではなく、アメリカに負けない知性を持つことだと思います。歴史の厚みからくる正統性の強さを自覚しなければならないのです。
ロバート・レッドフォードの死は、一時代の終焉を告げるニュースであると同時に、日本にとって「次の時代をどう生き抜くか」を考える契機でもあるのです。
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