2025年9月11日木曜日

若手をどう育成するか?

 

中小企業の経営者の約8割が、若手社員の育成に課題を感じているという調査があります。育成手法としては1on1ミーティング、OJT、オンライン研修が中心ですが、経営者の3割弱が「効果があまりない」と感じており、現場では指示待ちの若手や主体性の欠如に悩む声が少なくありません。主体性やコミュニケーション能力を育むには、座学だけでなく実践を通じた体験型の研修が重要だと考える経営者も多いようです。

しかし、このような調査結果は「どう育てるか」という手法の話に偏りすぎています。つまり、what(生き方や在り方)よりもhow(方法論)が前面に出てしまう。これまで機会あるごとに何度も言及しましたが、日本社会は「無駄と余裕がなさすぎる」ため、時間をかけて内面から育つプロセスに余白がありません。   
 
ロールモデルは持つだけでは十分ではないと思います。それを自分なりに咀嚼し、少しずつ超えていくことこそが本当の成長です。私はこれを「ロールモデルの継承と超克」と呼んでいます。何事も簡単には変わらず、すぐに超越できるわけではありません。経験上、徐々に時間をかけて変わるもので、いくら努力してもすぐには結果が出ないことも多いのです。でもあきらめてはいけません。何十年もたって、気が付いたら自分が若手のロールモデルになっていた──そんな感覚で日々を過ごすことが大切だと思います。

この考え方は、私が音楽や芸能の体験からも実感しています。例えば、エリック・クラプトンの演奏は、初期のブルースの影響を受けつつも、長年の試行錯誤の末に自分の音楽性として消化されています。単に模倣するだけでは、あの独自の表現は生まれません。同様に、桂枝雀さんの落語も、師匠の型を受け継ぎながら、自らの経験や観察を加えて独自の笑いを作り上げました。いずれもロールモデルの「超克」があって初めて、その個性や魅力が花開いたのだと感じます。

若手社員育成においても同じことが言えます。教えたり指示したりするだけでは限界があります。経営者や先輩の背中を見せつつ、本人が失敗や試行錯誤を通じて学び、自分なりのやり方を見つける余白が必要です。そのプロセスを丁寧に支えることで、主体性や課題解決能力といったスキルは自然に身についていきます。座学だけではなく、実践を通じた学びが重要であると多くの経営者が感じているのは、まさにこの「時間をかけて自己形成を促すプロセス」が必要だからだと思います。

私自身も、若手に対して「こうしなさい」と教えるだけではなく、自分の経験や考え方を共有する中で、彼らが少しずつ自分の軸を見つける手助けを意識してきました。そして、彼らが成長し、自分のやり方を確立したとき、いつの間にか自分が若手のロールモデルになっていたことに気づくのです。

結局、若手育成とは「結果を急がず、プロセスに寄り添うこと」だと、私は経験上そう思います。短期的な成果や即効性だけを求めるのではなく、時間をかけたロールモデルの継承と超克を支援することが、組織全体の持続的成長につながるのではないでしょうか。

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