大晦日の早朝――正確には、12月31日の午前3時ごろのことでした。
世間では、大晦日ということで慌ただしい一日が待ち構えている。
私はすでに起きていました。
年寄りの朝は早い。というか、これが私の日常であり、ゴールデンタイムでもあります。
その時間、なぜか無性に中華粥が食べたくなりました。
炊飯器にはすでにセットしてあり、スイッチを入れるだけ。
あとは炊き上がりを待つだけです。
やがて炊きあがる音がして、いい匂いが立ちのぼってきました。
パクチー、ネギ、ドライオニオンを並べ、器はどれにするかなぁ、、、。
「さて、食べるか」と思った、その瞬間――
炊飯器の蓋が、開きません。
フックボタンを押しても、微動だにしません。
何度押しても、反応なしです。
中華粥の香りだけが、やけに元気に主張してきます。
いい匂いはする。
しかし、開かない。
これは焦ります。
大変です。
もしかしたら、人生最大のピンチかもしれません。
仕方なくネットで調べ、
パナソニックの「24時間チャット対応トラブル窓口」にアクセスしました。
深夜でも対応してくれるらしい。文明は進みました。
ところが、10回ほどやり取りして分かりました。
相手は、どう考えてもロボットです。
こちらが
「蓋が開かない」
「中華粥が食べられない」
と必死に訴えているのに、ロボットさんは冷静に、
「専門のテックにつなぎます。次の画面でお申し込みください」
と言います。
中華粥は好きか聞いても答えません。
しかも、
「通常500円のところを198円にディスカウント」
などと、いかにも親切そうな提案までしてきます。
もちろん、申し込みません。詐欺の可能性だってあります。
年寄りといっても、人生経験豊かな高齢者は簡単には騙されません。
そうこうしているうちに、50分ほど経ちました。
すると――
中が冷めたのか、再びフックボタンを押すと、あっさり開きました。
……あれほどの騒ぎは、何だったのでしょうか。
こうして私は、無事に中華粥にありつくことができました。
もう夜明けが迫っています。
パクチーも、ネギも、ドライオニオンも、すべてが報われました。
教訓はいくつかあります。
一つ、人生のピンチは、だいたい午前1時に起こります。
二つ、深夜のチャット窓口は、だいたいロボットです。
三つ、多くの問題は、少し時間が経てば勝手に解決します。
大晦日の夜明け頃、
私は湯気の立つ中華粥をすすりながら、
「まあ、今年もこんな感じか」
と、一人で納得しました。
新しい年も、きっと
大げさな騒ぎと、小さな結末の繰り返しなのでしょう。
***


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