2026年1月21日水曜日

AIが嘘を作る時代に、国語は何を育てるべきか

 

正解を探すのではなく、関係を読み直す。
AI時代に、国語が本来育ててきたはずの力。

AIが嘘を作る時代に、国語は何を育てるべきか

~ 共通テスト現代国語と、ある事件をきっかけに)

「性的ディープフェイク」で女性芸能人に似せたわいせつ画像を作成し、会員制サイトに掲載した疑いで、警視庁が31歳の男を逮捕した――そんなニュースを目にしました(2026年1月20日、読売新聞)。

AIを使って実在人物の性的画像を生成し、販売していたという内容です。いわゆる「性的ディープフェイク」と呼ばれる、新しい形の性暴力犯罪だとされています。映像や画像そのものはAIが作り出した虚構ですが、被害を受けるのは現実の人間です。技術の進歩が、人の尊厳を踏みにじる形で使われてしまったという事実に、私は強い違和感と不安を覚えました。

このニュースをきっかけに、今年の大学入学共通テストの現代国語の問題を読み返しました。

出題文は、桜井あすみ氏の「贈与としての美術・ABR」です。そこでは、美術とは作者が意味を一方的に伝えるものではなく、鑑賞者や社会との関係の中で「贈与」として成立する営みである、という主張が語られていました。私はこの考え方に深く共感しました。意味は作品の内部に閉じているのではなく、人と人、人とモノとの関係性の中で立ち上がるものだ、という視点です。

この「関係性の中で意味が生まれる」という考え方は、美術鑑賞に限らず、情報を受け取る態度そのものにも通じるのではないでしょうか。フェイク情報の多くは、単独で提示され、文脈や他の視点から切り離された形で流通します。一枚の刺激的な画像、一つの断定的な言葉だけが孤立して提示される。だからこそ、それが事実であるかのように見えてしまうのです。

逆に言えば、複数の情報源、異なる立場、反証の有無などを照合し、情報を関係性の中に配置し直すことで――いわばコンステレーションを描き直すことで――初めて見えてくるものがあります。これは、桜井氏の言う「贈与としての美術」と同じ構造ではないかと感じます。つまり、フェイクを見破るには、個々の情報の真偽だけでなく、その背後にある関係性まで含めて考える必要がある、ということだと思います。

コンステレーション

「コンステレーション(constellation)」は主に「星座」という意味ですが、転じて「多数の人工衛星群」や「一群の要素が構成する配置・まとまり」などを指し、ユング心理学やデジタル通信分野でも使われる言葉です。

ただし、この話を国語教育、とりわけ大学入試の現場に当てはめてみると、話は少しややこしくなります。

高校の現代国語は、本来、価値観の多様性に触れ、思考の幅を広げるための教科だったはずです(これは私の独自解釈かもしれません)。ところが、受験の現場では、思考をできるだけ限定し、設問の意図に最短距離でたどり着くスキルが求められます。予備校の現代国語講座を見ても、効率よく点数を取るための「型」が前面に出ています。自由に考える力は、むしろ邪魔者扱いされているようにも見えます。

最後に、改めて考えたいと思います。AI時代に本当に必要なのは、あらかじめ用意された正解を素早く当てる力ではなく、断片的な情報を文脈の中に置き直し、関係性を組み替えて意味を立ち上げる力ではないでしょうか。そして、それこそが本来、国語教育が担ってきた、あるいは担うべき役割だったのではないか――教育の素人の私はそう感じています。

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