2026年1月16日金曜日

AIハルシネーション政治 ――考えている「ふり」の世界

 

考えているように見える。
だが、何も考えていない。

イアン・ブレマーの2026年の世界10大リスク

イアン・ブレマーは、アメリカを代表する国際政治学者であり、世界の政治・経済リスクを分析するコンサルティング会社「ユーラシア・グループ」の創設者です。国家間の軍事衝突や金融危機だけでなく、テクノロジーや社会変化が民主主義に与える影響を読み解くことで知られ、各国政府やグローバル企業の意思決定に大きな影響を与えてきました。

毎年発表される「世界10大リスク」は、未来予測というより、世界が見落としがちな「構造的な危うさ」を可視化する警告として注目されています。

イアン・ブレマーは、2026年の世界的リスクの一つとして「ユーザーを食い尽くすAI」を挙げました。

彼が最も警戒しているのは、AIが人間を超えることではありません。人間が考えなくなることです。おこがましいですが、これは私がコロナ禍のころから言い続けてきたことでもあります。

ここで重要なキーワードがあります。
「AIハルシネーション」です。

ハルシネーションとは、AIが「それらしく聞こえるが、事実でも理念でもない答えを、もっともらしく作り出してしまう現象」を指します。一見、筋が通っているように見える。言葉も整っている。ところが、よく見ると根拠も責任も現実認識も欠けている――それがAIハルシネーションです。特に現実認識、いわゆる as-is に弱い。原因と結果の間に立ち、同じ目線で丁寧に考えるようなことは、基本的にしません。

考えている「ふり」をする新党結成の正体

昨日発表された、野党同士による新党結成のニュースを聞いた瞬間、この言葉が頭をよぎりました。

立憲民主党の野田佳彦代表は、「200人近く擁立しなければ比例票が出てこない」と語ったそうです。一方、公明党の斉藤鉄夫代表は、「選挙目当てではない」と述べるにとどまり、目標数すら示しませんでした。
  • 理念は語られない。
  • 国家像も語られない。
  • 政策の一致点も検証されない。
あるのは、「それっぽい言葉」と「選挙にかかわる数字」だけです。

これは熟議の結果なのでしょうか。それとも、「野党が勝つための最適解を出せ」と入力し、AIが吐き出したハルシネーション的アウトプットなのでしょうか。私のこの疑問、なかなか面白いと思いませんか?

ブレマーが警告するAIの最大の危険性は、エンゲージメント――つまり人を動かす効率――を最大化するために、意味や真理を切り捨ててしまう点にあります。そこでは、「正しいかどうか」ではなく、「反応を得られるかどうか」だけが価値基準になります。少し立ち止まって、よく考えてみてください。

今回の新党構想は、まさにそれと同じ構造を持っています。
  • 勝てそうかどうか
  • 数が取れるかどうか
  • 動員できるかどうか
これらはすべて「出力」であり、「目的」ではありません。にもかかわらず、政治の中枢がそこだけを語っているように見えます。

AIハルシネーションの怖さは、「間違い」よりも「空虚」にあります。完全な虚構ではない。しかし、そこに責任を引き受ける主体がいない。――日本の政治に、実によく似ていませんか?

今回の新党結成も、同じ匂いがします。失敗したとき、誰が何を誤ったのかを説明できない。なぜなら、最初から「なぜそれをやるのか」が存在していないからです。日本の大規模な業務改革プロジェクトを思い出す方も多いでしょう。

ブレマーはこう言います。

熟議民主主義には、独立して考え、情報を持ち、積極的に関与する市民が必要だと。しかし今、日本の政治が示しているのは、その正反対です。考えず、感じず、ただ「それらしい回答」を並べる。これはAIに支配される未来ではありません。AIの振る舞いを真似てしまった人間の劣化です。

AIには理念もビジョンもありません。しかし、人間までそれを放棄したとき、民主主義は単なるアルゴリズムになります。理念もビジョンもない日本の政治とは、残念ながら相性がいい。

今回の新党結成は、政治的決断とは言いにくいでしょう。政治を装ったAIハルシネーションなのです。

ブレマーの警鐘は、シリコンバレーだけに向けられたものではありません。すでに、日本の政治状況そのものに、はっきりと響いています。

――人間は、まだ自分で考えているのでしょうか。

この問いに答えられない政治に、未来を語る資格はありません。

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