2011年2月16日水曜日

(続々)The Soul of Japan

新渡戸稲造の『武士道』は、福沢諭吉の『学問のすすめ』と双璧をなす名著です。今の日本に最も必要なことが書かれています。

原文の英語は単語が難しいです。しかし、好きなセンテンスを一つ二つ丸暗記しておいて、アメリカ人との会話に何気なく使うと、相手は一目も二目も置くでしょう。岩波文庫に日本語訳がありますが、この日本語も難しい。でも、教養あふれる日本語です。両方を比べながら読むのがいいと思います。

『武士道』は十七章から成っています。一章は迫力ある導入部です。武士道を不言実行の不文律と位置づけています。二章は仏教やキリスト教と比較しながら武士道の起源を説明します。私のように宗教に無知な、ある意味典型的な日本人には難解です。しかし、新渡戸さんが主張したいこと、つまり、武士道は成文化されたものではないが、宗教心の稀薄な日本人にとって精神的な支柱みたいなものだということは理解できます。

三章から十一章は、必要な徳目(義、勇、仁、礼、誠、名誉、忠義、教育と訓練、克己)が書かれていて、それぞれが相互作用していると述べられています。この構成はすごい。章と章が論理的に結合されています。最後のほうは、武士道の将来はどうなるか等々です。
  • 三章 「」は最も厳格な教えで「勇気」を伴う決断の力(power of decision)。
  • 四章 「勇気」とは「義」のために実践されるのでなければ価値はない。 敢為堅忍の精神。
  • 五章 「(惻隠の情)」とは真のリーダーが持つべきものである。相手の気持ちを慮る。
  • 六章 「」とは謙譲・慇懃のこころである。慇懃だけど「礼」がないのは慇懃無礼。
  • 七章 「」がないのであれば、「礼」は猿芝居であり茶番となる。
  • 八章 武士の中心は「名誉」。恥の感覚である。無ければ破廉恥となる。
  • 九章 「名誉」と表裏一体のものが「忠義」である。日本人のロイヤリティ。

十章 武士の教育および訓練で、教師は「vocation(聖職者)」と書かれています。様々な徳目を修得するための教育フレームワークです。十一章 克己。ここでは日本人の気質について触れられていますが、列島の外で生活すると、涙がでるほど身につまされるポイントです。アメリカのロックバンド、エアロスミスに「Sweet Emotion」という曲がありますが、新渡戸さんは「Tender Emotion」という言葉を使い、「日本人は優しき情緒に対して世界で一番敏感な民族である」と言っています。

新渡戸さんは、なぜ『The Soul of Japan』を書物に書きあらわすことができたのでしょうか?

新渡戸さんは、奥さんがアメリカ人で本人はクリスチャンです。欧米の事情を熟知した上で、日本人を理解してもらうために『武士道』を英語で書いたのです。更に重要なポイントが2つあります。一つは、新渡戸さんは、江戸時代の生まれで武家の出身、維新を挟んで江戸と明治の両方を生きたことです。二つ目は、欧米で暮らし、台湾でも総督府の役人を務めたことです。様々な角度から物事の本質を考えたのだろうと思います。だから、100年経ってもぶれない内容の本が書けたのでしょう。

本当は、愛するアメリカ人の奥さんに日本人の素晴らしさを訴えたかったのかも知れませんが、、、。

***

0 件のコメント:

コメントを投稿