今年の玄関のオリーブ
日本の世の中が評価して立派だと思われている人が、実は、とんでもない俗物だということに出くわすことが多くなりました。
世間からダメな人間だというイメージを持たれ続けていますが、本当はそうじゃない、反骨の精神を持った優しい男、それが太宰治じゃないでしょうか?
『東京八景』(昭和16年)は、大学進学のために上京し(昭和5年)、32才になる太宰が「青春への決別の辞」として振り返ってつづった作品だといわれています。結婚し(昭和14年)、『走れメロス』を書き(昭和15年)、作品はどれも前向きな内容で人気作家となりました。
『東京八景』は、東京での10年を総括したものでしょう。 力が抜けて余裕がでたのだと思います。
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「甚だ心細い、不安な余裕ではあったが、私は真底から嬉しく思った。少くとも、もう一箇月間は、お金の心配をせずに好きなものを書いて行ける。私は自分の、その時の身の上を、嘘みたいな気がした。恍惚と不安の交錯した異様な胸騒ぎで、かえって仕事に手が附かず、いたたまらなくなった。東京八景。私は、その短篇を、いつかゆっくり、骨折って書いてみたいと思っていた。十年間の私の東京生活を、その時々の風景に託して書いてみたいと思っていた。私は、ことし三十二歳である。日本の倫理に於ても、この年齢は、既に中年の域にはいりかけたことを意味している。また私が、自分の肉体、情熱に尋ねてみても、悲しい哉なそれを否定できない。覚えて置くがよい。おまえは、もう青春を失ったのだ。もっともらしい顔の三十男である。東京八景。私はそれを、青春への訣別の辞として、誰にも媚びずに書きたかった(『東京八景』)。
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