
トランプタワーと 590 Madison ビルの間の Public Space
(ネットの拾い画像)
私はアメリカで仕事をしていた頃、1989年から1993年の期間は、マンハッタンの 590 Madison Avenue にオフィスがありました。このビルはトランプタワーに隣接しており、両者は「バンブーガーデン」と呼ばれるパブリックスペースを共有していました。特別にトランプ氏に関心を持っていたわけではありませんが、ニューヨークで仕事をしていると、彼の噂は自然と耳に入ってきました。
それから30年以上が経ち、ドナルド・トランプは再びアメリカ政治の中心に戻りました。そして2026年の今、世界の多くの国が改めて彼との向き合い方を考えています。
数年前、トランプ氏が英国を訪問した際、BBCの記事を読んで興味深い印象を持ったことがあります。
テーマは不法移民問題でした。
イギリスでは近年、小型ボートによる海峡横断の不法入国が急増し、社会問題になっています。英国政府はフランスとの返還協定など穏健な対応を模索していましたが、トランプ氏は「軍を投入してでも止めるべきだ」と強硬な姿勢を示しました。
彼の言葉は常に極端に聞こえます。
しかし、その背後には一つの一貫した考え方があります。
トランプ氏は政治家というより、不動産ディベロッパーの交渉スタイルで世界を見ているのです。
まず強い主張をぶつけ、議論の基準点を一気に引き上げる。そのうえで相手の反応を見ながらディールを組み立てていく。心理学では「アンカリング」と説明されることもありますが、実際にはもっと土着的なものです。ニューヨークの不動産業界で鍛えられた交渉の作法と言ったほうが近いでしょう。
トランプ氏にとって “Make America Great Again” とは単なる政治スローガンではありません。アメリカという国家の「ブランド価値」を回復するという意味を持っています。
国家の威信が弱まれば、外交交渉でも不利になります。
ブランド価値が下がれば、国の資産価値も下がる。
彼の政治思想は、この非常にビジネス的な発想から組み立てられているように見えます。
興味深いのは、英国の対応です。
かつて英国はアメリカをどこか冷ややかに見ていた印象がありました。
しかし近年の英国外交を見ると、トランプのような政治スタイルに対しても、現実的な礼節を保ちながら対応しているように見えます。
英国にはロイヤルファミリーという強力な国家ブランドがあります。
長い歴史と象徴的権威を背景に、相手の政治スタイルに飲み込まれずに関係を保つ術を知っているのです。
では、日本はどうでしょうか。
日本もまた、世界でも例外的な歴史を持つ国です(イギリス以上に)。
皇室を中心とする2000年以上の伝統は、日本の最大のブランド価値と言えるでしょう。
しかし外交の現場で、それを戦略として意識しているようにはあまり見えません。むしろ日本の議論は、経済合理性や国内政治の都合に偏りがちです。
現在、日本は人口減少と労働力不足を背景に外国人労働者の受け入れを拡大しています。しかし国境管理や制度設計は、欧米諸国が経験してきた社会的摩擦を十分に踏まえているとは言い難い状況です。
私は20年間アメリカに住み、愛犬を三度日米間で移動させました。
日本は狂犬病ゼロの国として動物検疫は非常に厳格で、老犬を三か月も成田空港に係留させた経験があります。
ところが、人に対する入国制度や永住権の扱いは驚くほど緩い。一貫した哲学が見えにくい。この落差には今でも強い違和感を覚えます。
国家の秩序を守るという意味では、本来どちらも同じ問題のはずです。これは外国人の受け入れを否定する話ではなく、国家としての一貫したルール設計の問題だと思っています。
本日、高市総理大臣が訪米しトランプ氏と会談する予定になっています。
そこで求められるのは、単なる外交儀礼ではなく、トランプという政治スタイルを理解したうえでの交渉でしょう。
強い主張の背後にある論理を読み取り、日本自身の国家ブランドをどう位置づけるのか。その視点がなければ、交渉は単なる力関係の話になってしまいます。
英国が現実主義に転じたように、日本もまた理想論だけではなく、国家というものの重さをもう一度考える時期に来ているのかもしれません。
***




