智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。
住みにくさが高じると、安い所へ引き越したくなる。どこへ越しても住みにくいと悟った時、詩が生れて、画が出来る。人の世を作ったものは神でもなければ鬼でもない。やはり向う三軒両隣りにちらちらするただの人である。ただの人が作った人の世が住みにくいからとて、越す国はあるまい。あれば人でなしの国へ行くばかりだ。人でなしの国は人の世よりもなお住みにくかろう。
越す事のならぬ世が住みにくければ、住みにくい所をどれほどか、寛容て、束の間の命を、束の間でも住みよくせねばならぬ。ここに詩人という天職が出来て、ここに画家という使命が降る。あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。
(夏目漱石 『草枕』 1906年)
智に働く(偏差値)教育ばかりやってきたから、今の日本は、あっちこっちで角が立つのでしょう。 極端な感情にメディアが棹をさして国民は流されている。 意思のある若者は協調性がないとはじかれる。 要するに、「智」「情」「意」のバランスが悪すぎる。
「住みにくい所」って、いま自分がいる所や組織ですね。 自分の国でもあります。 「智」「情」「意」のバランスをとることが、すなわち、人生で、人生とはそういうものだと思います。 夫婦関係だって親子関係だって、自分は自分で妻や子供といえども自分じゃない。 バランスをとるようにマネージすることを楽しむのが、人生を上手に生きるコツかも知れません。 もちろん、自分自身の中にも「智」「情」「意」の葛藤があって、バランスをとらなければならないと思います。
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